福岡政行の参院選展望:自民の歴史的大敗もあり得る

「安倍政権にお灸」の意識高まる
2007年7月25日 日経BPネット
(福岡 政行=白鴎大学教授)

いよいよ投票日が間近に迫った第21回・参議院議員選挙。各地で繰り広げられている選挙戦では、年金問題のほか、閣僚の相次ぐ失言問題・不祥事疑惑が争点として取り上げられている。はたして、参院選の結果はどのような様相となるのか。開票後の政局や、経済状況はどうなるのか。白鴎大学教授の福岡政行氏が展望する。



自民党の獲得議席数は30台

7月12日に公示となった第21回参院選は、自民党が大敗する公算が高い。選挙戦に突入して間もない時期に、新聞各社が大規模な世論調査を行った。この結果、各社共通で明らかになったのが「自民党不振、民主党躍進」だった。

投開票日である29日の直前にも、各社は同じように世論調査を行う予定。序盤戦の調査で明らかになった不利な状況を、自民党がどこまで盛り返すかに注目したいと思う。だが、現状を見る限り、自民党の敗色を覆すような好材料は見当たらない。

現時点での私の予想は、自民党の獲得議席数は30台。かつて「惨敗」と言われた1998年の44議席をも下回る大敗を喫する可能性が高い。こうなれば、政権の続投うんぬんを議論するレベルでさえない。安倍首相は敗北を認めざるを得ないだろうし、自民党はポスト安倍を打ち立てるべく総裁選へと動く。さらには、自民党政権の是非を問うため、総選挙となる可能性も否定し得ない。

地方の景気は回復していない

一般に、この選挙の最大の争点は年金問題だと言われている。各党のマニフェストも最優先で年金問題を取り上げている。しかし、その底流にあるのは景気問題であり格差問題だ。

先日、自民党のある会合を取材した。会場の様子は一種異様だった。そこには2000人ほどの党関係者が全国から集まっていた。壇上から幹部が「みなさん景気はいいですか?」と問いかけた。普通は、こうした問いかけがあっても、特に反応のない場合が多い。ところが参加者から「悪い!」という声が上がった。声の主は、皆、人口7〜8万人という中小都市の人たち。「景気が良くなった」と言えるのは、せいぜい東京と名古屋だけ。多くの人は、景気の地方格差を問題視している。

閣僚の失言、不祥事疑惑相次ぐ

「実感なき景気回復」への反感、地域格差に対する不満といった底流の上に起こったのが、いわゆる「消えた年金」問題だった。さらに、閣僚の失言、不祥事疑惑問題が続いた。柳沢伯夫・厚生労働相の「女性は産む機械」発言(1月)に始まって、松岡利勝・前農林水産相の事務所費用疑惑(3月)、久間章生・前防衛相の原爆投下「しょうがない」発言(6月)、赤城徳彦・現農水相の事務所費用疑惑(7月)。直近では、麻生太郎・外務相の「アルツハイマーの人でも分かる」発言(7月)が注目を集めた。格差問題に悩む地方の人々のみならず、大都市部に住む人々も皆、安倍内閣に失望した。

「空気を読めない」安倍首相にお灸をすえる無党派層

相次ぐ閣僚の失言や疑惑に対して、安倍首相が的確な対応をしていれば、少なくとも首相への不信感はここまで募らなかったかもしれない。問題なのは、安倍首相自身の対応のまずさだ。赤城農水省の件では「適正に対処している」とかばい、久間前防衛相の失言にも「アメリカ側の論理を説明した」とかばったのは、ほかならぬ安倍首相である。

新潟県中越沖地震が、7月16日に発生した。安倍首相はその日のうちに被災地へ向かった。その迅速さが、選挙戦のプラス材料になることを自民党は期待しているかもしれない。だが、被災地に首相がすぐに行ったからといって、事態が劇的に好転するわけではない。むしろ、被災した東京電力柏崎刈羽原子力発電所で次々に発覚する問題(消火体制の不備や、データ消失など)によって、「国は何を考えてるんだ」というマイナス面のほうが目立っている。

こうした状況のせいだろうか。実は最近、永田町界隈で「安倍はKY」という陰口がささやかれている。「KY」という言葉は、私も知らなかった。どうやら「KY」は女子高生らの間で流行っている隠語。「空気(K)が読めない(Y)」人のことを言うそうだ(関連記事)。

お灸をすえるため、投票率が上がる

今回の選挙では、投票率が高くなるだろうと、私は予測している。政界には「亥年の選挙は投票率が低い」というジンクスめいたものがある。実際、1995年、1983年、1971年という亥年の参院選の投票率は、いずれもその前後に行われた参院選より投票率が低かった。そこで、私も数カ月前までは「今度の参院選の投票率はせいぜい50%程度」と考えていた。だが、新聞各社の調査を見るとどうも違う。おそらくは前回の56.57%をいくぶん上回る57〜58%になりそうだ。

投票率が上がればどうなるか。無党派層の影響力が増す。ここまで述べてきたように、安倍政権は様々な問題を抱えている。無党派層の多くは、そんな自民党に「No」を突きつけるに違いない。投票率が上がれば上がるほど、自民党の敗色は色濃くなっていくのである。

以上の分析から、私はこの参院選を「国民が自民党にお灸をすえる選挙」になると見ている。先日、テレビで同席したテリー伊藤氏も「福岡さん、今回の参院選は“お仕置き選挙”だね」と言っていた。大いに同感である。

好機にもかかわらず盤石とは言い難い野党陣営

さて、他の党はどうか。私は、「民主党の躍進」を予測している。無党派層に限って言えば、自民党と民主党の間で、トリプルスコアくらい得票に差がつく可能性がある。しかし、この好機を前にした民主党も盤石とは言い難い。「自民党にお灸をすえる」つもりの国民は、「Anyone but 自民党(自民党以外なら誰でも)」的心境になるだろうが、「だからといって民主党でいいのかな」という気持ちにもなるのではないか。

自民党への逆風は感じる。しかし、民主党への追い風を感じ取れるかというと、そうでもない。今回は「自民党に投票したくない人の受け皿」として、多くの票が民主党へと流れるだろう。だが、自民党との相違点を明確にしきれないでいる民主党にも課題は山積している。参院選後の動きに注目をしたいところだ。

公明党は、連立政権を組む自民党への逆風の影響で「良くて現状維持」。共産党や社民党は、「自民党への逆風」が吹いても民主党ほどの恩恵にあずかれそうもない。やはり現状維持と見る。

国民新党は「与野党の議席数がつば競り合いになれば、キャスティングボードを握る」と自認している。確かに参院議席の過半数をめぐって、1つの議席が大きな影響力を持つようになれば、同党の存在意義は増す。しかし今の情勢では、自民党が30台後半から40台前半程度しか議席を獲得できないおそれがある。一方、民主党が50台後半から60台前半の議席を獲得すれば、与野党の議席数の差が20以上にまで広がる気配もある。そのため、国民新党の発言力、影響力は限られたものにしかならないと、私は考えている。

参院選後は総裁選〜総選挙? 経済の行方は?

では、以上のような私の分析・展望通りの結果が出た場合、以後の政局はどうなるのか。冒頭で触れたように、自民党内ではポスト安倍の動きが急速に顕在化する。時間がない中での総裁選となるだろうから、候補となるのは前回の総裁選に出馬していた麻生外相と谷垣禎一・元財務相だろう。

また「年内に政権交代〜総選挙」の流れとなりそうなことは、すでに多くの関係者が見込んでいる。衆議院議員の中には、これを見越して既に地元に戻るような動きをし始めている者もいる。

2007年の秋、日本の政局はこうした非常に忙しい状況となるに違いない。気になるのは経済への影響だ。アメリカの景気は、ここへ来て頭打ちが予測されている。日本が被る影響も小さくはないだろう。そんな中で、「参院選〜総裁選〜総選挙」という激動が起き、政治不在の期間が発生するのは危険だ。

どれだけ政治不在の期間を短く収めることができるか? その後、戦略的なリーダーシップを発揮して対米、対中外交や、経済政策を切り盛りできるリーダーが登場するかどうか? 財界関係者の関心は、もはやそうした段階へと移っている。

次回、参院選の結果を受けて、もう一度これからの日本について展望をしたいと思う。

f0013182_19184213.jpg福岡 政行(ふくおか・まさゆき)
1945年 東京都生まれ。1968年 早稲田大学政治経済学部卒業、1973年 早稲田大学大学院政治学研究科で博士課程修了〜明治学院大学法学部非常勤講師、1976年 駒沢大学法学部専任講師、1980年 駒沢大学法学部助教授、1992年 白鴎大学法学部教授(現任)、2002年 立命館大学客員教授(現任)。
「歩く政治学者」を自認し、「現場」へ足を運ぶ姿勢を貫き、テレビ、ラジオなどのメディアでも独自の視点に基づいた政治解説を行うことで名高い。主な著書に『いま、日本にある危機―この国はどこに向かおうとしているのか』(東峰書房)、『手にとるように政治のことがわかる本―選挙・国会・政党を大解剖!』(かんき出版)、『もう首相はテレビ討論で決めよ』(小学館)などがある。

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by deracine69 | 2007-07-25 17:00 | 政治  

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