安倍自民が惨敗 『私の内閣』存立難しく

2007年7月30日 東京新聞 社説

 安倍政治にノーの判定が下された。どんな主張も政策も国民の信頼を失っては実を結べない。参院選の突風はそう教えている。首相の「私の内閣」は存立可能か。

 「小泉・郵政総選挙」から二年足らず。小泉後の安倍晋三政権が信を問うた参院選はまるでオセロゲームのように「黒白」が反転した。

 一議席を争う二十九選挙区で小沢一郎氏の民主など野党が安倍自民党を圧倒した。改選数三や五の大都市圏も自民と公明の候補は押しまくられた。東京、埼玉、神奈川などで民主に、どちらかがはじき出された。

 比例代表では自民得票率が前回参院選をさらに割り込んだ。凋落(ちょうらく)ぶりは目を覆うばかりである。

 「敗因は安倍さん」の声
 選挙の最終盤に自民比例候補の陣営で聞いた悲鳴と落胆が耳に残る。「なんで安倍さん、こんなに人気ないの?」「九年前の橋本政権の参院選最終盤と空気が同じ。負ける」

 橋本政権は必ずしも不人気だったわけでない。が、長い不況に手をこまぬく与党の失政批判に加え、財政政策の首相のブレ発言がたたって自民は大敗。四十四議席だった。

 安倍氏は首相就任十カ月の信任を求めた。教育基本法を変えた、改憲へ国民投票法をつくった、想定外だった年金の記録不備問題も手を打っている、と。

 遊説先では、公務員制度の改革や地域の再生、攻めの農政も掲げて「改革か逆行か」と訴えた。

 戦後生まれ初の日本国首相は戦後体制脱却を唱える。しかし気負いは空転した。語る言葉が目次の域を出ず、戦後の何が悪く、だからどうする、を語れなければ、国民がついていくはずはない。

 首相は気づいていなかったのだろうか。先の国会の強引な運営は支持離れに拍車をかけた。「空気が読めない」-こんな批判が与党にくすぶる中での、橋本政権時の獲得議席も下回る惨敗に、与党からも「敗因は安倍さん」の陰口が聞こえる。

 進行していた基盤の劣化
 野党は国民の年金不安への政府対応、そして閣僚らの失言や不透明なカネの説明不足をめぐっても、後手を繰り返す首相の甘さを突いた。

 政権リーダーの「資質」が焦点になれば反政権側に追い風が吹く。30%前後に下落した内閣支持率は選挙前から与党の劣勢を物語っていた。だが、これほどの逆風の厳しさは、それだけでは説明し切れない。

 自民の支持基盤の甚だしい劣化である。前兆はかねてあった。突然変異のように人気を集めた小泉長期政権で忘れられていた深刻さが、今春の統一地方選で実感されていた。

 四十四道府県議選と主要都市の市議選結果が参院選の自民敗北をかなりの確率で予言している。都市で民主は議席を大幅に伸ばし、自民の金城湯池の農村部でも躍進した。

 今回参院選の一人区でいえば、県議大幅減の岡山や滋賀、九州でも自民の幹部やベテランが敗れた。東北の一人区、四国は全滅。石川、富山ですら自民は苦杯をなめた。

 かろうじて当選できた人も、農家の所得補償などを掲げる小沢民主に守勢に立たされた。縮むパイを蜜月のはずの自民と公明が奪い合う。そんな事態が各地で展開された。

 自公で二議席死守を目指す大都市の選挙区で、公明から自民へパンフ配布の要求があった。実際に配ったかどうか“監視”つきで。終盤には自民の県議一人につき五百票分を融通するよう公明が求めた。

 「こっちだって当落の瀬戸際」と自民陣営。母屋を乗っ取られる、堅い宗教団体票を当てにした連立を続けていれば、支持基盤が弱るのは当たり前だよねぇ、といった自民陣営の運動員の嘆きを聞いた。

 猛烈な逆風は連立与党間にも冷気を吹かせた。そもそも右傾斜の目立つ安倍自民と公明の相互にある違和感は、自公の参院半数割れで増幅されておかしくない。

 忘れるわけにいかないのは、主要な争点が小泉・安倍政権通算六年半の決算でもあったことである。地方・弱者切り捨て政治だ、と格差拡大を攻める野党に、与党の反論は迫力を欠いた。地方の荒廃が進み、都市住民にも不公平感が募る中での「政権審判」選挙だったのだ。

 歴史的といっていい惨敗だが首相は続投するという。自公両党の執行部も退陣はあえて求めていない。ただ求心力の減衰は避けられまい。

 内閣改造で急場をしのぐにも人事は就任来の首相の“鬼門”である。国会はじめ政権の運営は困難を強いられよう。よほどの覚悟が要る。

 速やかな総選挙が常道だ
 勝った民主にはもちろん第一党の重い責任がのしかかる。衆院は与党圧倒多数のままだ。参院の多数野党が政治をかき乱すと映れば、世直しを期待した有権者は裏切られたと思うだろう。悲願の政権も遠のく。

 とはいえ政権との安易な妥協は困る。多少の混乱なら談合よりましである。衆院の与党の暴走を抑え、参院で再考を促せるなら、二院制本来の機能発揮が期待できるからだ。

 首相にも要望する。あなたはいまだ総選挙の洗礼を受けていない。ぜひ、速やかな政権選択選挙を、と。
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by deracine69 | 2007-07-30 17:00 | 政治  

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