参院選報道 鈴木哲夫さんに聞く 自民のコミ戦と距離 『視聴率取れない』も背景に

2007年8月1日 東京新聞

 自民党の歴史的大敗に終わった参議院選挙。二〇〇五年の「郵政選挙」では、自民党による巧みなメディア戦略が選挙結果に大きな影響を与えたとされているが、今回の参院選はどうも事情が違ったらしい。「政党が操る選挙報道」(集英社新書)の著者で、ジャーナリストの鈴木哲夫さんに聞いた。 (近藤晶)

 ――著書では「郵政選挙」での自民党のコミュニケーション戦略(コミ戦)の舞台裏を明かしている。当時、コミ戦が成功した最大の要因は何だったのか。

 「選挙で初めて“司令塔”をしっかりつくったというのが、前回の郵政選挙だった。官邸には、飯島勲秘書官(当時)という非常に情報収集能力が高い人がいて、コミ戦本部には(民間企業で広報に携わってきた)世耕弘成参院議員がいた。で、その上で踊っている役者が小泉純一郎首相(当時)だった」

 「コミ戦には広告代理店を参加させ、テレビなどのメディアがどう取り上げたかをすべてチェックし、有権者の意識調査など詳細なデータを集めた。それをテーブルに上げて、じゃあどうすればいいのかをコミ戦で決めた。刺客と呼ばれた候補者のせりふやキャッチフレーズも指示し、どんな小さなマイナス情報もすぐに対応した」

不器用な“役者”とバラバラな行動

 ――今回の参院選で、自民のコミ戦は機能しなかったのか。

 「一言で言うと、郵政選挙で結実したコミ戦は今回は大失敗。いいところはまったくなし。乗っかっている役者は、最高に不器用な安倍晋三首相。官邸も、党本部も、みんなバラバラに好きなことをやって、それが裏目に出た」

 「コミ戦の肝というのは危機管理。マイナスのことが起きた時にいち早く情報収集し、どう対応するか。年金問題は実は最大のチャンスだったが、安倍さんはそれができなかった。どう売り出すかというのは次の話。コミ戦とは何なのかを理解している人は少なかった」

 ――それでも安倍首相は国会閉会後、立て続けにテレビ出演したが。

 「参院選は選挙日程が決まっている。首相の立場での出演といっても選挙が近いのだから、局側は二の足を踏む。テレビの常識を知らなさ過ぎる」

 ――郵政選挙では、メディアがコミ戦に踊らされた面もあったが、今回はどうだったか。

 「『小泉劇場』の反省から、ニュースだけでなく情報系番組でもバランスよくやっていたと思う。『今回はだまされないぞ』という空気はあった。前回はなかったが、テレビ自らが選挙企画で『テレビメディアと政治』といったテーマをどこも取り上げていた」

 「ただ、『首相では数字(視聴率)が取れない』というのは局関係者の定説。逆説的に言えば、安倍政権と距離を取っていたともいえるが、単に視聴率が取れないからという可能性もある。赤城問題や久間発言の方がおもしろいし、視聴率も取れる。結果としてそれが政権批判につながったともいえる」

 ――テレビメディアの政治報道や選挙報道はどうあるべきか。

 「選挙戦に入っているという理由で、丸川珠代候補の住民票問題をニュースで伝えたところはほとんどなかった。悪(あ)しき平等主義というか、テレビの責任放棄。これは候補者の資質の問題で、それを有権者に伝えるのはメディアの役目だ」

 「テレビの政治ジャーナリズムは、もっと主張を持つべきだと思う。各候補者の主張を並べるなら選管がすること。全員同じだけ批判すればいい、これも平等。それによって緊張感が生まれる。政治家は批判に応えなければならないし、それを放送することで、有権者に一歩先のヒントを与えることになる」

 すずき・てつお 1958年生まれ。早大法学部卒業後、テレビ西日本入社。フジテレビ報道センター政治部、東京MXテレビ、朝日ニュースター報道制作部を経て、現在は日本BS放送報道・制作部長。「政変劇の舞台裏~自民党への挽歌」「東京政界地図」などの著書がある。
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by deracine69 | 2007-08-01 08:00 | 政治  

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