人気ブログランキング | 話題のタグを見る

アイデンティティを確認する場所、香港・重慶大廈

2007/08/20(月) 14:48 中国情報局

広東語の魅力 第20回:チョンキンマンションに住んでみる(3)-田中素直

  チョンキンマンションにはカレー屋かゲストハウスの2通りしかないので、食事の選択肢が少なく、ちょっとうんざりという感じだ。とはいっても、絶品のカレーにありつけたり、チラシに日本語が書かれていたりと予想外の発見があるかもしれない。

  注意しなければいけないのは、ゲストハウス前にいる客引きのおっちゃんたちだ。私は以前、チョンキンマンションに泊まろうと入り口まで行くと、比較的身なりのきちんとしたアフリカ系の客引きにつかまった。相手は「日本人は歓迎だ」と言い、1晩100香港ドル(当時1500円くらい)の優待価格を提示された。

  個室で一晩100香港ドルは安い部類に入る。とにかく安く泊まりたいと思っていたので、おっちゃんの後をついてゆくことにした。エレベーターに乗り、扉を何枚も抜け、狭い通路を折れ曲がること3回、やっと到着したと思ったら、そこはまさに「ただの部屋」であった。ホテルとかゲストハウスとか言う代物ではなかった。扉の外には何も看板が掲げられておらず、どこからがゲストハウスの内部なのかもわからない。薄暗く、狭く、ベッド一つ置いただけで部屋の中がいっぱいになる広さだ。

  風呂トイレはついていないので、廊下の角にあるトイレを使う。中に温水器とシャワーが設置されているので、シャワーを浴びるときは着替えとタオルをトイレに持ち込まなければならない。さもないと、裸で廊下を歩く羽目になる。スリッパもついていないので、入浴後でも素足にローファーを履かざるを得ず、大変難儀した覚えがある。ベッドもなんとなく汗臭くて、安いだけの最悪な夜だった。

  まあとにかく、客引きについてゆくとあまりよい宿に当たらない気がする。チョンキンマンションには安くて行き届いた宿がたくさんあるので、評判のよいゲストハウスを探して、できれば予約をしてゆくのがよいと思う。もっとも、予約をしていなくても泊まれないことはまずありえないだろう。ちゃんとしたところならば深夜でも飛び込みでも結構大丈夫なので、ひるまずチャレンジしてみるとよいかもしれない。

  そして深夜だが「チョンキンマンションは眠らない」と言いたいところだが、実はほとんどのテナントがちゃん休みになる。24時間営業の店はないのではないだろうか。その意味では非常に人間臭い場所だと言える。ゲストハウスにも鍵がかかり、フロントの係員は寝てしまうので、もし相当遅い時間にゲストハウスに行くようなことがあれば、鍵があいていないこともあるので注意が必要だ。宿直のおじさんを起こせば何とかなるが、結構かわいそうである。

  また、深夜はエレベーターが利用しにくくなることもある。高層階から集められた大量のごみをすべてエレベーターを使って外に運び出すためだ。九龍城砦には、エレベーターなど存在するはずもなく、毎日階段の上から下へごみを掃き落としていたようだし、その点チョンキンマンションはまだ文明的である。

  このゴミ回収は比較的早い時間に行なわれることもあり、そうするとただでさえ混雑するエレベーターはいっそう混み、ドアの前には行列ができる。こういう手間を考えると、高層階に住むのは若干不便である。3‐5階くらいなら、階段で上っても行けるし、高層階だからといって景色がいいとは限らないひねくれた建物なので、機動性を確保したい方は、低層階に住むことをおすすめする。

  チョンキンマンションには、色んな人間が住んでいるので独特の迫力がある。が、お互いが干渉しないように、かつ、補完しあいながら上手に暮らしている。その中に日本人が入っていったとしても何ら不自然なところはない。しかし、国籍の違いを感じさせない場所かと言えばそんなことはなく、むしろ自分のアイデンティティを強く確認する場所だと思う。特に日本人は、日本国内にいれば自分が日本人であると言うことを意識する機会はほとんどない。ところが、チョンキンマンションにひとたび足を踏み入れれば、当たり前のように闊歩するさまざまな人種を目の当たりにして、世界の多様性を肌で感じることができる。

  ここで暮らすことで得られる一番の収穫とは、このような国際人としての度胸と素養そしてコミュニケーション力なのではないかと思う。(執筆者:田中素直・株式会社ユニオール代表取締役)

by deracine69 | 2007-08-20 14:48 | アジア・大洋州  

<< 黒髪に切れ長の目、モデルで女優... 那覇空港で中華航空機炎上、乗客... >>