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竹中平蔵 ポリシー・ウオッチ 安倍政権 2つの教訓

2007/09/17 13:36 産経新聞

■政策説明足りず

 安倍晋三首相の突然の辞意表明は、多くの関係者を驚かせた。わずか1年前に70%という高支持率から出発した安倍内閣…。その首相が、内閣改造、所信表明を終えて、いざ国会審議が始まる瞬間に辞意表明するという、異例の事態となった。こうした選択に対し、国民の厳しい目があることは否定できない。

 今回の事態の背景として、2つの問題があったと推察される。第1は首相の健康問題である。周辺の情報から、最近の健康問題はかなり深刻であったことが伝えられている。日々極限状況に置かれる首相の職務を考えると、この要因は一般の想像以上に大きかったと考えられる。第2は、先の内閣改造で、首相側近といわれた若手政治家がことごとく閣外に去り、気がつけば党は幹事長に、内閣は官房長官に実権を握られ、支配されていたという点である。遠藤武彦前農水相の辞任が決められた際の新聞報道では、「首相、かやの外」といった見出しで、安倍首相がもはや政治の実権を奪われていると報じた。こうした中で、政権担当を放棄する決意をしたのであろう。

 長期政権も可能といわれた安倍政権が、なぜ1年で失墜したのか。この間の経緯を見ると、政策運営の面で2つの重要な教訓が浮かび上がる。次の内閣がどのような布陣になろうとも、この2点と向き合うことが必要になる。

 第1は、「政策マーケティング」の失敗である。民主主義社会である以上、国民のためになる政策を、国民に分かりやすく示し、実施する責任が内閣にはある。

 改革を引き継いだ安倍首相は、教育再生の必要性、成長力強化の重要性、イノベーションの重要性など、正当な政策問題を提示した。この点は間違っていない。しかし、教育再生会議をつくるなどスタート台は作ったものの、再生のために具体的に何をするのか、国民が一番知りたい問題には1年間ほとんど説得的な答えを出せなかった。消費者に例えるなら、健康な食品を届けるというメッセージは聞いたものの、それが何なのか一向に聞かされないような状況である。この点は、成長戦略、イノベーションなどについても同様だった。

 政策マーケティングという点から言えば、政策の考え方を国民に説明する努力が、圧倒的に不足していた。小泉内閣当時に比べると、閣僚によるTVや雑誌への発信量は大幅に減少している。結果的に、安倍首相自身が前面に出て語る政策問題、例えば戦後レジームからの脱却や憲法改正が注目されるようになる。しかしこれは、政策の優先順位が国民の関心と違うという強い批判となって表れた。

 ■人選こそがすべて

 昨年秋に内閣が発足した時点で、首相周辺では2つの戦術が議論されていた。1つは、郵政民営化に匹敵するような、つまり国論を二分するような問題(戦略的アジェンダ)を掲げて参院選に臨むという考えだ。もう一方が、できるだけ波風立てず、無難な政策運営で長期政権を目指す考えだった。結果は後者が選択されたが、このため国民からみると内閣がやりたい政策が何なのか、つまり政策メッセージがきわめて不鮮明な内閣となった。こうした中で、社会保険庁不祥事、政治とカネ、閣僚失言が生じた。国民から見て政策的関心事が希薄な中で連続的に不祥事が生じたことから、内閣への支持は一気に低下したのである。安倍内閣は、長期政権を目指した政策マーケティングをしたが故に、皮肉にも短命政権となってしまった。

 根底にあったのは、何といっても「人事」つまり人選びである。適切な閣僚選びがなされていれば、政策マーケティングがここまで悪化することはなかった。適切な人事が行われていれば、政治資金や失言でここまでダメージを受けることはなかった。その意味で、人事こそがすべてだった。そしてその極め付きが、先般の内閣改造である。

 先の内閣改造を振り返ると、不可解ないくつかの現象があったことに気づく。当初、安倍首相は人心一新を掲げ、その時点で多くの人は閣僚全員の交代を予想した。しかし結果は、17人中5人が留任することになった。また、首相一人で決めるはずの閣僚の名前が、事前に外部に随分と漏れていた。小泉内閣ではなかったことだ。これらのことは、政治資金の関係もあり、思い通りの組閣ができなかったこと、さらには首相一人の意思で内閣改造、人事決定が行われなかったことを示唆している。

 1年前は側近を多数登用し、人事権を駆使した首相が、今回は側近がほとんど皆無になるという状況に追い込まれた。そもそも閣僚、補佐官など主要なポストに側近を配すること自体は、いわば当然のことである。しかし、お友達内閣との批判に屈し、改造内閣ではこの点が大きく変化した。側近人事、官邸人事がいかに重要であるか、という教訓を残した。

 これに関連して、官邸における業務の分担・集中の問題があったと伝えられている。首相官邸というのは、膨大な量の情報を整理し、調整を行い、そして決断しなければならない場所だ。政策論議、人事情報、マスコミ対応など、適切な分担がなければとても対応できない。安倍官邸の一つの問題は、一部の秘書官らにこうしたすべてが集中し、結果的にオーバーフロー状況に陥った、という点である。

 今後とも、政策マーケティングと戦略的人事という難問に向き合うことなしに、政権の運営はありえない。その意味で、ポスト安倍の総裁候補がこの2つの面でいかなる戦略を駆使する用意があるのか、大いに注目したい。

by deracine69 | 2007-09-17 13:36 | 政治  

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