【週末に読む】道路と日本人

3月8日16時26分配信 産経新聞

 わが国の政治にとって最大のテーマは、経済でもなければ、福祉や教育でもない。国民の安全を守る防衛とは、とうてい思えない。ひたすら道路をつくることらしい。

 国会審議のありさまを見ると、そうとしか考えられない。いわゆる道路特定財源とガソリン暫定税率を死守するために、政府と与党はなりふりかまわず突っ走る。

 これは、もう見過ごせない。クルマ好きを自認する演出家のテリー伊藤は「ユーザーにも言わせろ!」と新著『クルマの税は高すぎる』(ワック)で声をあげた。

 「買って税金、持って税金、走って税金、走らなくても税金」

 クルマには自動車取得税など9種類の税金がかけられている。このうち6種類は道路建設のための目的税。本来よりも増税された“暫定”が、30年以上も続いている。

 「一般財源にまわすくらいなら、暫定税率を廃止すべきです」

 道路問題が注目されるのは、近年で二度目である。小泉政権で道路公団の民営化がもちあがった。焦点は高速道路の採算性であった。

 国際交通安全学会の編著『「交通」は地方再生をもたらすか』(技報堂出版)は、そこに疑問を投げかけた。

 「民営化にとらわれて、道路問題の全体像が忘れられている」

 この編著のなかで、当時の鳥取県知事、片山善博(現慶応大大学院教授)は、地方の立場から発言していた。

 「国の道路行政は、現場の感覚からズレている」

 国がやるべきなのに、地方から負担金を召しあげたり。逆に地方の判断で決めればよいところに、国が補助金を出して不要な事業すら地方に押しつける。

 道路をつくるとき、国は補助金を出す。ところが、開通した道路を利用するための政策には冷淡である。まるでつくることが目的のようだ。

 日本の道路整備は、たしかに遅れていた。約半世紀前、米国のラルフ・ワトキンスを団長とする調査団が、日本の道路状況をレポートした。

 「世界の工業国で日本ほど道路網を無視してきた国は、ほかにない」

 この報告は、日本政府に大きな衝撃を与えた。そのインパクトから名神高速道路をはじめとする有料ハイウエーの建設がスタートした。

 なぜ日本は、それほど道路の後進国になったのか。理由は、歴史をさかのぼる。明治時代にいたるまで日本には、人が歩く街道しかなかった。

 竹村公太郎の著書『日本文明の謎を解く』(清流出版)によると、日本では車文明の空白時代が長かった。馬車や牛車があまり発達しなかったからである。

 「日本人は牛や馬を家族の一員として扱った。だから、去勢を徹底しなかった」

 物資の運搬は、沿岸の海上輸送が中心であった。ローマ帝国以来の道路ネットワークによって発展した西欧と違って、日本は海に活路を見出す国なのであった。

 西欧からはるかに遅れて、日本は道路とクルマの文明を必死に追いかけてきた。気がつくと、曲がり角に来ていた。若者の間に「クルマ離れ」の兆しさえみられる。

 それでもなお、政府は道路づくりの見直しより推進に血道をあげる。そのさなかに、海上の自衛艦が漁船に衝突して沈没させた。

 なんと弁明の余地のない大失態であろう。

 (山田愼二)
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by deracine69 | 2008-03-08 16:26 | 政治  

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