なぜ福田政治はわかりにくい? 道路特例法に隠された真実

2008年5月15日 nikkei BPnet 田原総一朗

13日、道路特定財源を10年間維持する「改正道路整備財源特例法」が、衆院本会議で与党の3分の2以上の賛成で再可決され成立した。

なぜ道路の一般財源化問題が紛糾したか

なぜ道路特定財源の一般財源化問題がこれほどまでに紛糾したのか。そもそもこの問題については自民党と民主党の政策にほとんど違いがない。自民党は「09年度から道路特定財源を一般財源化する」とし、民主党は「08年度から一般財源化する」としている。たった1年の違いなのだ。

民主党は、国会に出されている「道路特定財源10年間59兆円」という政策と、「09年度から一般財源化」というのは矛盾するではないか、と批判している。しかし、福田首相は、「再可決が終わり次第、閣議で『10年間59兆円』をやらないと決める」と言っていたわけだから、矛盾だと言っている民主党の言い方に無理があった。これについては、マスメディアも、わざと誤解しているのかよく理解していないのかわからないが、民主党と同じように矛盾と言って騒いでいた。しかし、これは矛盾というほどのものではないし、要するに1年の違いだけなのだから、大騒ぎするようなことではなかったと思う。

どうにもこうにも、国会、政治、マスメディアが大事件でもないのに、つまらないところで大騒ぎをしている。「大事件」というのはミャンマーのサイクロンであり、中国の大地震のようなことをいうのだ。どうも日本は、外のことを全く見ずに、内向きの話ばかりを問題にしすぎている。

国民の怒りを利用するだけの民主党

「後期高齢者医療制度」問題にしてもそうだ。従来は、75歳以上の老人は、仮に息子の扶養家族になっていれば健康保険は支払わなくてよかった。しかし、後期高齢者医療制度で今後は年間に1人当たり3万数千円、夫婦2人だと約7万円払わなくてはならない。あるいは、後期高齢者になった夫の奥さんも、つまりこれも扶養家族だが、今までは支払わなくてよかった保険料3万数千円を支払わなければならない。これに対して「老人いじめだ」「老人切捨てだ」「後期高齢者は死ねと言うのか」という批判、怒りが国民から噴出した。

民主党は、この国民の怒りを利用しようとした。道路特定財源の再可決でただちに問責決議案を出そうと決まっていたものを、後期高齢者医療制度の問題で福田政権を追い込んだ方がよいと判断した。

今の民主党は福田政権との政策論議には一切応じない。民主党のある幹部が「約一名、政策には一切興味を示さない。政局オンリーで困ったものだ」と、僕に言っていた。ところが、その約一名が非常に力を持っているので、今の民主党は政策には全く興味を示さず、政局一点張りとなってしまっている。

民主党が政策に関心なく、政局一点張りでくるのであれば、本当は自民党にとってはチャンスなのだ。「この政策は、実はこういう理由があり、こういう事情でやらざるを得ない」と説明するよい機会になるからだ。しかし、自民党は一切そういった説明をしない。ここが、国民にとって政治を非常に分かりにくくしている部分でもある。

官僚の意のままの自民党政治家たち

後期高齢者医療制度についても、もし今まで払わなくてよかった後期高齢者が、このまま従来どおり保険料を払わないとすれば、現役世代にどれくらい負担が重くなるか、これをきちんと明らかにして説明すべきなのだ。現役世代の負担が重くなるので後期高齢者の人たちにも一部負担してほしい、現役世代が今どのくらい負担をしていて、もし後期高齢者医療制度がなければどのくらい負担が増えるのかを説明すればいいのに、それを一切しない。

だが、自民党の政治が下手ということではない。官僚がそのような説明を自民党の政治家たちにしないのだ。なぜ官僚は政治家に説明しないのか。示すと都合が悪いからだ。

官僚は、一般の国民に理解されてしまうと、色々なクレームがつくと考える。だから“由らしむべく、知らしむべからず”(「人民には、国の施政に従わせることはできるが、その理由などをわからせることはできない」という孔子の論語の言葉)となる。

だいたい、高度成長期以後の政策というのは、ほとんどが国民に痛みを強いるものなのだ。高度成長のときには景気がよいので、国家の歳入がどんどん増えた。考えるべきは、そのどんどん増えていく歳入を国民にどう分配すればよいのかということであった。そういう時代だった。それは国民にとっても喜ばしいことなので、官僚や政治家もわりに本当のことが言えた。

ところが、高度成長が終わり、バブルがはじけて、デフレから不況の時代に入った。つまり、歳入が少なくなった。そして、歳入が少なくなるのと裏腹に、高齢者が増えてきた。高齢化社会だ。高齢化社会というのは、どうしても医療や、あるいは、福祉が増えていく。

政策を理解していない政治家たち

出るものが多く、入るものが少ない。そういうときの政治というのは、どうしても国民の痛みを伴う政策になる。国民の痛みを伴う政策を、国民に分からせると、官僚たちは不評を買うと考えている。本当は分からせないから不評を買うのであって、はっきりと分からせた方がよいのだが、分からせるとまずいと考えて、どんどん分かりにくくしている。

僕は、いくつか政策について政治家に説明を聞いたが、政治家たちは「実は理解できないんだ」ということが少なからずあった。

例えば最近でいえば、公務員制度改革である。閣議決定した公務員制度改革の一番のポイントは、「人事庁」の設置だった。今までは各省庁の幹部が人事を決めていた。例えば、財務省の人事は財務省の幹部が、厚生労働省の人事は厚生労働省の幹部が決めていた。だが「人事庁」を内閣府につくれば、人事庁が人事を決めることになるので、縦割り行政の弊害、癒着をなくすことができるというものだった。

ところが、結果的にできたのは「人事庁と各省の両方が人事を決める」というものだった。極めて曖昧であり、両方が決めるといっても主導権はどちらが持つのか、全く書いていない。主導権もなく両方が決めるなどということはできるはずがない。これは、官僚たちが自分たちの権限を奪われるのが嫌で、人事庁というものはつくるのだが、結局は自分たちが権限を保持できるようにしてしまったのだ。そのために非常にわかりにくい文章で書いてある。

官僚は常に真実を隠す

このように官僚は、自分たちにとって都合の悪いことを隠すために、いつもわかりにくい文章を書く。わかりやすく書けば国民から不信感を抱かれ、怒りを買うからだ。今回の後期高齢者医療制度も、僕は官僚がわざと分かりにくくしているのだと思う。

だが、情けないことに、自民党三役も官邸も、全く官僚に牛耳られていて、主体性が発揮で来ていない。「ノー」と言えばいいだけのはずなのに、それができずにいる。

「ノー」と言う政治家もいることはいる。例えば、内閣府特命大臣の渡辺喜美さんは最初に「ノー」と言った。ところが、その渡辺さんを官僚たちは、寄ってたかって押し潰そうとした。現に、公務員改革は、官僚たちが押し切ってしまった。

政府のやろうとしている政策すべてが分かりにくい。これは官僚が分かりにくくしている。本来は政治家が官僚に突き返して、国民に分かりやすい形にすべきなのだが、今の政治家にはその力がない。さらに、民主党が「こんなものは分かりにくくて駄目だ。もっと分かりやすくしろ」と迫っていくべきなのだが、民主党は全く政策に興味がなく、ひたすら自民党を追い詰める政局ばかりに執着している。

こんなことだから、国民にとって、今の政治というものが非常に分かりにくく、政治不信が強まっているのだ。分かりにくい官僚たちの説明をそのまま政治家がすれば、それによって政治不信を招くということが、どうも今の政府には理解できないようだ。ここが一番の問題だと思う。

暫定税率がなくなると困る本当の理由

暫定税率が25円下がった、上がった、という問題についても、全地方自治体の長たちが下がることに反対したわけだが、この反対の理由を政府は「暫定税率が下がると、地方には道路が作れなくなる」と説明した。しかし、それは嘘だ。地方自治体は新たに道路なんてそれほど作らなくてもよいのだ。

実は、暫定税率の25円には、今まで地方が公共事業、特に道路をつくった際の借金の返済が含まれているのだ。暫定税率が25円下がると、地方が借金の返済ができなくなる。これこそが、地方自治体にとって一番の問題なのである。

「暫定税率がなくなると、借金の返済ができなくなるから困る」と言えば非常に分かりやすいのに、政府はそれを言わない。これも官僚が政治家に説明しないからだ。「なぜ地方には返済しなければならない借金があるのか」ということになると、それは官僚の失政として、官僚が責められることになるから、官僚は説明しないのだ。

道路などを色々なものをつくるときに、国が補助金を出す。ところが、補助金を出す場合も、半分は地方が持たなければならない。補助金が来るからそれを使うために道路を作った。この借金が、各地方自治体には山のようにあるのだ。

いつまで続く“コップの中のポピュリズム”

「道路がつくれなくなるので反対」ということを言うと、「これ以上道路はいらないではないか」という世論になってしまう。しかし、本当の問題は、道路ではなく、借金返済なのだ。そう説明すれば国民も納得できるのに、官僚に牛耳られている政府はそれができない。

結局、政策の狙いや意味は国民には明かされず、いつまでたっても表面的な政策論議に終始する“コップの中のポピュリズム”が続いていくことになるのである。
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by deracine69 | 2008-05-15 23:59 | 政治  

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