アジア外交 かけ声で終わらぬよう

5月24日 北海道新聞

 福田康夫首相がアジア外交の新たな基本方針(ドクトリン)を発表した。

 一九七七年に父親の福田赳夫元首相がアジアとの協調をとなえた「福田ドクトリン」を引き継ぐ「新福田ドクトリン」である。

 首相は太平洋を人や物資が行き交う「内海(ないかい)」に見立て、環太平洋地域の幅広い連携を呼びかけた。

 米国一辺倒だった小泉純一郎政権、価値観外交で中国を封じ込めようとした安倍晋三政権とは一線を画すという思いもあるのだろう。アジア重視の外交姿勢は歓迎したい。

 もちろん、新ドクトリンには外交戦略としての狙いがある。

 首相の父親の時代、日本はアジア唯一の経済大国だった。

 いま、中国やインドの台頭ぶりは目を見張るばかりだ。大きな経済力をつけ、政治的な発言権も強めている。韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)の成長も著しい。

 日本がアジアを牽引(けんいん)するのではなく、各国と競争していかなければならない時代なのだ。

 新ドクトリンは、こうした情勢を踏まえ、アジアにあらためて日本の存在感をアピールしようとするものとみていい。

 この中で、首相は五つの約束を表明した。

 共同体を目指すASEANを強く支持する。日米同盟を強化する。平和協力国家として汗を流す。若者の交流に力を入れる。気候変動対策に力を尽くす。

 この方向性を否定はしない。問われるのは今後、そこにどう政策を肉付けし、具体化していくかだ。もちろんそれは現政権だけが負う責任ではない。

 アジアでは、ミャンマーのサイクロン、中国・四川大地震と未曾有の規模の災害が続いている。新型インフルエンザの脅威も身近に迫る。

 首相が提唱した防災・防疫ネットワークの構築は、一刻も早く実現してほしい。高い防災技術や科学力で日本が大いに貢献できるはずだ。

 懸念も指摘しておきたい。

 日米同盟の強化は、軍事一体化の推進というのが実態だ。それは逆にアジアの国々の警戒を強めるということを忘れてはいけない。

 インド洋での給油活動を継続すると言明したことにも、強い違和感がある。ドクトリンは、国内で賛否が分かれる問題を主張すべき場ではないだろう。

 首相は、太平洋を内海にするためのキーワードは「開放」だと強調した。何かにつけ「内向き」と言われる日本も変わらなければならない。それができなければ、ドクトリンはかけ声だけで終わってしまう。




新ドクトリン 米国への率直な注文で
5月24日 信濃毎日新聞

 福田康夫首相が講演で、アジア外交に臨む基本理念を発表し、地域協力を重視する考えを打ち出した。「新福田ドクトリン」とも言える内容だ。

 小泉純一郎元首相のとき、日本外交は対米協力一辺倒に傾きすぎた。安倍晋三前首相も基本的に小泉路線を踏襲した。軌道修正してバランスを回復しようとする姿勢は歓迎できる。

 理念に実を持たせるには、アジアの一員として、米国に率直に注文を付けていく姿勢が必要になるだろう。

 「福田ドクトリン」は首相の父親である故福田赳夫首相が約30年前、東南アジア諸国歴訪で打ち出した外交理念をさす。平和に徹し軍事大国にならないことや、対等な協力者の立場で繁栄に寄与することなどを盛り込み、各国から歓迎された。

 今度の講演で首相は、太平洋を「内海」ととらえる見方を打ち出した。この地域の国々は冷戦終結やグローバル化を受けて、高い経済成長を実現した。相互依存も強まった。「内海」という見方に共感する人は多いだろう。

 首相はその上で▽東南アジア諸国連合(ASEAN)共同体の実現を支持▽地域安定の「公共財」としての日米同盟の強化-など「5つの約束」を打ち出した。

 戦後の日本外交で「アジア」は最も重要な軸の一つとされてきた。日米関係、国連を中心とする国際協力と並ぶ三本柱である。

 それを揺るがしたのが小泉元首相だった。9・11テロを受け、ブッシュ米政権の「テロとの戦い」にいち早い支持を表明、イラクに自衛隊を派遣した。対米関係の突出だ。

 対照的に、中国、韓国との関係は冷え込んだ。安倍前首相は靖国参拝についてあいまいな姿勢を取ることで辛うじて関係悪化を防いだものの、修復軌道に乗せることはできなかった。首相の今度の演説は、日本外交を本来の軌道に戻す決意を表明したものと受け取ることも可能である。

 9・11テロを受け、米国の対外政策は一国主義的な色彩を強めている。中国の地位が高まってもいる。日本政府にとって、対米関係と対アジアの関係の調整はこれまで以上に難しい。

 米政権に対し、最も信頼できる国の一つとして、耳に痛いことも注文していくほかないだろう。首相の言う対米と対アジアの「共鳴外交」で、日本の存在感を示していくことだ。首相の決意と内閣の知恵が試される。


新福田ドクトリン 現実直視してほしかった
2008.5.24 03:02 MSN産経ニュース

 福田康夫首相が今後30年間にわたる対アジア外交の基本的な考え方を講演した。地域諸国にとって太平洋が「内海」となるような開放的なネットワーク構築をにらんだものだという。

 国政の責任者が折にふれて外交の長期ビジョンを語ることは必要だ。太平洋を人やモノが行き交うことで発展した地中海に見立てる発想も興味深い。

 首相はASEAN(東南アジア諸国連合)共同体実現を断固支持し、多国間協力に傾斜する姿勢を示したが、外交の基軸である日米同盟強化という課題との両立はこれでどう可能なのか。逆に日米同盟関係は弱体化せざるを得ないのが現実だろう。その意味で安全保障上の観点が欠落していると指摘せざるを得ない。

 「アジアの未来」と題するスピーチは、昭和52年に父の福田赳夫首相が発表した「福田ドクトリン」を念頭に置き、時代の変化や地域の拡大など新たな可能性を加味したものといえる。

 首相はアジアに不安定・不確実要素が残っていることを認め、日米同盟を「アジア・太平洋の安全装置」と位置付けた。しかし、地域内の主要メンバーとなる中国は、軍事拡大路線をとり続けるなど不安定要因なのに、その対処には言及していない。

 日本が得意な分野である防災・防疫のネットワーク構築に尽力するのはよいが、中国の四川大地震やミャンマーのサイクロン災害では、社会体制の違いにより国民の生命が軽んじられていないかという懸念が浮き彫りになっている。国際社会の支援を拒み、躊躇(ちゅうちょ)する両国の姿勢が、犠牲者の拡大を招いた可能性も否定できない。

 アジアの中の多様性を尊重するとしても、国民の生命や人権という基本的な価値観を重視する姿勢をもっと鮮明にすべきだった。その点、安倍晋三前首相や麻生太郎元外相は、自由と民主など基本的価値観を共有する国々との連携強化を重視する「価値の外交」を重視した。

 福田首相は自分の流儀として、価値観を押し付けるような言い方は避けたようだ。

 だが、キーワードを「開放」とするなら、チベット問題には言及してほしかった。さらには拉致、核という日本にとって死活的な懸案を抱える北朝鮮を「北朝鮮問題のような不安定要素」のひと言で片づけてもらっては困る。
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by deracine69 | 2008-05-24 23:59 | 政治  

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