2008.06.05 文藝春秋編 日本の論点PLUS
新聞などの世論調査で、福田内閣の支持率が軒並み20%台を割り込んだ。20%割れは歴代の内閣が退陣前に記録した数字で、政権の存亡を占う“デッドライン”と呼ばれている。最近では、森喜朗内閣が2001年4月に記録して以来だ。過去には佐藤栄作、田中角栄、三木武夫、鈴木善幸、竹下登、宇野宗佑、宮沢喜一、森の順で8つの内閣が、いずれも20%割れ後にほどなく退陣に追い込まれている。福田康夫首相の前途に“赤信号”がついたと言われるゆえんである。 ところが、自民党内では、政党や派閥を超えた勉強会、グループづくりと夜の会合こそ目立っているものの、奇妙な静けさが支配している。この裏には「ポスト福田が政界再編と連動する可能性がある」(自民党幹部)との観測があるのと、300超の衆院の議席を失いかねない早期の総選挙を避けたいという厭戦気分がいっしょになって、だれもができるだけ波風を立てたくないと思っているからだ。だが政争と人事がメシより好きな集団だけに、ポスト福田が最大の関心事であることは疑いない。 下馬評では、次の総裁は一応、「本命」麻生太郎元外相、「対抗」谷垣禎一政調会長、「穴」与謝野馨前官房長官――といわれている。しかし、各氏には弱点とさまざまな前提条件があって、実態は混戦の総裁レースというのがふさわしい。 よくいわれるのが「サミット花道論」、すなわち7月7~9日の洞爺湖サミット後に福田首相が辞任するという筋書きだ。そうなれば、ただちに前述の顔ぶれを軸にした総裁選が行われよう。しかし、福田首相は、後ろ盾である森元首相、青木幹雄前参院会長に対し、「何があっても、絶対、解散や総辞職はしないので安心して下さい」と約束(衆院山口2区補欠選で自民党候補が大敗した4月27日夜)している。もとより本人が自ら辞任を申し出ない限り、任期(09年9月)前に総理・総裁を辞めさせることはできないのだ。 8月下旬に召集される見込みの臨時国会以降も福田首相でいくとすれば、その前に内閣改造をおこなって、初の自前内閣をつくらざるを得ない。この改造内閣は、国民年金の国庫補助金財源問題、つまり消費税の増税という大懸案に取り組み、さらに予算編成、新テロ特別対策措置法の再延長などに取り組まねばならないから、臨時国会が荒れて、かりに参院で首相問責決議案が可決されても、「スルー(無視)する」(首相周辺)方針だ。となれば、限りなく任期満了に近い総選挙となり、「ポスト福田は福田首相」(森元首相)の線で落ち着くことになる。 しかし、「政界一寸先は闇」である。自民党議員の大半が、争点が「増税」となる総選挙を回避したいと思っているのと、自民党が頼りにしている公明党が、来年7月の東京都議会選挙前に総選挙を、と主張していることを考えると、総選挙もことし10~11月あたりにおこなおうとしている節がうかがえる。そうなったら自民党は、選挙に勝てる新鮮な顔をかつがなければならず、前述の3人以外の総裁候補が浮上しよう。その1人が、小池百合子前防衛庁長官だ。小泉純一郎元首相や中川秀直元官房長官がしきりに有力候補の1人として持ち上げており、本人も周囲に、「子どもをつくれないし、日本初の女性首相を目指したい」と漏らしており、本気モードだといわれる。最大派閥の「清和研究会」(町村派86人)がかりに一致して彼女を支持すれば、「(福田赳夫、森、安倍晋三、福田に次ぐ)総理を5人も独占するのか」という、他派閥の批判をかわせるかもしれない。 次に動向が注目されるのは、無派閥だが政策通で知られ、歌人・与謝野鉄幹、晶子の孫という毛並みの良さをもつ、与謝野馨氏だ。7年半ぶりに再結集(5月13日)した「宏池会」(古賀派61人)の古賀誠会長が、代表世話人である谷垣氏にかわって、ほかの派閥といっしょに与謝野氏の擁立に踏み切った場合、いっきに本命に浮上する。もちろん清和会支配への反発が結集軸となる。そうなると、旧宏池会の麻生氏は、「為公会」(15人)の勢力がたよりないだけに、あてがはずれて戦力ダウンはまぬがれない。昨年9月の総裁選で善戦(136票集め2位)し、知名度こそ抜群だが、派閥の合従連衡がうまくいかないと苦戦しよう。 問題は、政界再編がどうからむか、である。そこで急浮上している人物が、5月下旬、著書、『官僚国家の崩壊』(講談社刊)を発表するなど、最近メディアへの露出が目立つ中川秀直氏だ。すでに講演で「リーダーに必要なのはビジョン。ビジョンが示されれば日本は新たな動きを始める。その結果が政界再編だ」と強調し、「大乱世が来たときには、我が身を投げ出す覚悟だ」(5月31日、広島市の講演で)と、トップリーダーへの意欲を隠さない。また、しきりに「小泉改革の継承」を訴えているのも注目される。清和会の代表世話人で、町村信孝官房長官とはライバルの間柄にある中川氏が総裁選に出馬すれば、最大派閥の幹部だけに本命になる可能性がある。しかし、安倍前首相が麻生氏と連携し、町村氏が中川出馬に反発すれば、派閥の分裂もあり得る。 さらに政界再編が連動したとき、総理大臣を選ぶ場が衆院本会議の首相指名選挙になるケースが考えられる。過去に自民党内から2人の候補者(大平正芳首相対福田赳夫前首相=当時)が争い、村山富市氏(自民、社会、新党さきがけが擁立した社会党委員長=当時)対海部俊樹氏(新進党。元自民党総裁・首相)の決選という、意外な展開になったことがある。そうなったときの候補として、橋本大二郎(前高知県知事)、加藤紘一(自民党元幹事長)、平沼赳夫(元経済産業相)各氏らの名前が取り沙汰されている。日本政治はいまや、自民党総裁=首相という成り行きではなくなった。そこでもう一人、「自民党の再登板はあり得ないが、新党になればどうか」(側近)とささやかれているのが、小泉氏である。動乱を迎えるのは洞爺湖サミット直後か。 (松本泰高=政治ジャーナリスト) by deracine69 | 2008-06-05 23:59 | 政治
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