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「空飛ぶホテル」A380導入か 決断の時迫る全日空

8月2日14時54分配信 産経新聞

 全日本空輸が、“空飛ぶホテル”と称される欧州エアバスの超大型機「A380」購入の検討を始めた。5機程度、総額約1000億円とみられる。需要の伸びている欧米路線に2012年に就航させる構想で、実現すれば、日本の航空会社で初の大型エアバス機導入となる。燃料費高騰に頭を痛める航空会社には、燃費のよいA380は魅力的に映る。だが、これまでエアバスのライバル・米ボーイングの新鋭機「B787」導入に大きな期待をかけてきた全日空が、なぜ急に心変わりしたのか?果たしてエアバス機導入の成算はあるのか?

 ■A380は非効率?

 「全日空は、本気でA380を購入するのか」。

 7月11日、日本航空の西松遙社長は定例会見で、報道陣に“逆取材”し、続けてこうつぶやいた。「A380のような大型機は、客席をすべて埋めて飛ばなければ効率が悪いのに」。

 航空機は、省エネ型の中小型機へシフトするダウンサイジングが時代の流れ。だが、A380は総2階建てで、座席数は500~800席。ボーイングの“ジャンボ”「B747」(500席超)をさらに大きくした機体だ。

 業績面で目標にする全日空の意外な方針変更に、西松社長は首をかしげる。超大型機で1便運用するよりも、満席の中型機を2便運用する方が経営上のリスクも小さく、顧客にとっても便利で喜ばれるはず。日航再建を軌道に載せ、今や「辣腕(らつわん)経営者」と評価も高い西松社長でも、A380導入の成算は描けないというわけだ。

 全日空の山元峯生社長が購入を最終的に決断するのは9月。好調な北米路線、欧州路線に投入し、ビジネスマンの需要が多い時間帯に絞り込んで就航させる計画とみられる。ドル箱路線のコストを下げ、さらに競争力を高めてライバルを引き離す大胆な一手だ。

 ただ、全日空社内でも、導入を疑問視する声はあったという。A380の全席を常に埋めるのは難しいからだ。「導入を決めたある海外航空会社は、席を埋めるためすでに安売りを始めている」(業界関係者)。

 こんなうわさも出た。全日空がエアバス購入の検討がよほど意外だったのか、「(検討報道が)北海道洞爺湖サミット直前だったので、購入には(日本政府がEU支持を獲得する取引など)何らかの国策的意図があるのではないか」などと、疑心暗鬼の声が周辺業界で渦巻いたほどだ。

 ■B787の遅れ深刻

 だが、超大型機ながらA380の機体は軽く、一度に大量の旅客を運べることから燃費の効率はよい。また、機内にバーやシャワーも設置でき、「空飛ぶホテル」と称されるほど快適性を高めた魅力的な機体であるのはまちがいない。

 一方、A380のライバルであるB787は、200~250席の中型機だ。構造部に炭素繊維を使っているのでこちらも機体が軽く、燃費効率に優れる。

 燃油高騰の中、エアバス、ボーイングは両機を核に、オイルマネーで潤う中東諸国の航空会社からの引き合いを期待し、互角の受注合戦を繰り広げてきた。ただ、昨年10月にシンガポール航空が「ローンチ・カスタマー(第1号購入者)」となり、ひと足先に世界の空にデビューしたA380の評判はよく、一方で就航予定が遅れに遅れるB787は押され気味だ。

 実は、全日空はB787のローンチ・カスタマーとして、世界の先陣を切って最新鋭機の引き渡しを受ける特別な立場にある。当初は北京五輪に合わせて中国路線にB787を華々しく就航させる予定だったが、納入は2009年7~9月期へとずれ込んだ。

 大きなビジネスチャンスを逃した全日空は怒り心頭で、ボーイングに遅延の損害賠償を請求する方向だ。航空業界では「全日空のA380購入の検討は、ボーイングとの賠償交渉などを有利に進めるカードではないか」とのうがった見方も消えてはいない。

 だが、世界でのA380の好調な受注はそんな駆け引きに加え、「再び起きるかもしれないB787納入遅れのリスクを分散させるため」(業界関係者)との保険をかけるような動きや、「ボーイングに愛想をつかしてエアバスに乗り換える地殻変動だ」(同)との指摘もある。それは、B787の納入遅延が一時的でなく、今後も恒常的な問題になるとの見方がじわりと広がってきたためだ。

 ■日航も追随?

 2007年の世界の航空機受注数は、ボーイング約1400機対エアバス約1300機でほぼ拮抗(きつこう)している。だが、日本では歴史的に、全日空、日航ともボーイング一辺倒だ。エアバスはボーイングの厚い壁に何度も跳ね返され、日本でのシェアはわずか4~5%に過ぎない。

 ボーイング“独占”の背景には1980年代以降、対米貿易摩擦解消のため、政府が日本の航空会社にボーイングの航空機を重点的に購入するよう要請してきたからとされる。ボーイングが、歴代米政権と太いパイプを保ってきたのも有名な話だ。

 だが、B787の納入延期というボーイング自ら招いた失策は、エアバスにとってボーイングの“金城湯池”である日本攻略のまたとない機会となる。

 実際、「エアバスの本当のターゲットは日航」との指摘もある。その理由は「日航の新機軸の経営戦略は、いつも全日空の後追い。全日空がA380を購入して成功すれば、日航も続くはず」(周辺業界関係者)というわけだ。

 約20年間、日本の空を支配してきたボーイングの王国に挑むエアバス。全日空の戦略転換は、実現すれば象徴的な出来事となる。サブプライムローン問題の波及で動揺が収まらない世界経済。燃料費の高騰も今後どうなるか予断を許さない。乱気流のような不透明な時代に、全日空が下す大胆な決断は吉と出るのか、凶と出るのか。業界は固唾をのんで見守っている。

by deracine69 | 2008-08-02 14:54 | 経済・企業  

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