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中国に引き寄せられる馬英九政権

FujiSankei Business i. 2008/8/5

 ■指導力不足 見えぬ外交理念

 中台関係の現状維持を唱える台湾の馬英九政権が、発足2カ月にして早くも中国ペースに引き込まれつつある。対照的に日本との関係は陰り、陳水扁前政権時代に悪化した米国との関係修復も進んでいない。馬英九総統の外交理念が明確さを欠くうえに、与党・中国国民党内での指導力も不足しているためだ。

 日米が馬政権との“距離感”を測りかねる一方、中国は国民党への工作を通じて背後から新政権を操ろうとの動きを強めている。

 5月20日に馬英九氏が新総統に就任するや中国、日本、米国との間で時代の変化を象徴する出来事が相次いでいる。5月28日に国民党の呉伯雄主席が北京で胡錦濤・中国共産党総書記(国家主席)と1949年の中台分断後、初の政権党間トップ会談を行った。

 胡主席が四川大地震への台湾の支援に「深く感謝」し、「中華民族の団結と互助」を称揚すれば、呉主席は「骨肉相つらなる中華民族の感情」で被害者への哀悼を表した。まさに台湾海峡両岸の「中華民族の同胞愛」あふれる会談」となった。

 席上、双方は主権をめぐる争点を棚上げし、経済交流から話し合うことで合意した。これに基づき6月12日には中台の交流団体間のトップ会談を10年ぶりに北京で再開、翌日には7月4日からの中台間の週末直行チャーター便就航で正式合意した。

 こうした交渉の進め方自体が中国方式だ。中国では政府の後ろで共産党がすべてを指揮する。これを「以党治国(党を以て国を治める)」という。

 すでに全面的に民主体制に移行した台湾では、権力の最高執行機関は選挙で選ばれた政権であり、そのトップの総統である。にもかかわらず馬英九政権は対中交渉の開始時点から相手の“土俵”で相撲を取らされたわけだ。

 国民党内には連戦名誉主席など、選挙民の付託を受けない親中派政治家も少なくない。中国はまず彼らを取り込んで国民党を動かし、馬政権に圧力をかける作戦に出ている。さらに馬総統は中国との交流拡大による経済浮揚を唱えて当選したから、中国は経済カードも切れるわけだ。

 中国の重圧が効き始めたか、馬総統はかつてのように中国への民主化要求やチベットなど少数民族政策への批判をしなくなった。8月12日から1週間、外交関係のあるパラグアイ、ドミニカを訪問する予定だが、中国を刺激しないよう、初外遊をつとめて地味な扱いにしようとしている。これには台湾の親中派新聞、聯合報でさえ批判しているほどだ。

 対照的に台湾遊漁船が日本の領海内で海上保安庁の巡視船と衝突して沈没した6月の事件では、対日強硬姿勢が目立った。腹心の劉兆玄・行政院長(首相)が「日本との開戦の可能性も排除しない」と述べて日台関係が緊張し、日本を驚かせた。

 事故に対する日本側の謝罪を機に馬政権も事態の沈静化に動いたが、同様の事件は今後も起こりかねない。馬総統自身、かつて日本の尖閣諸島領有に反対する活動家だった。現在は「平和的解決」を主張しているが、基本的立場はなんら変わっていないからだ。

 台湾の在日代表機関、台北経済文化代表処の許世楷代表(事故当時)は事件後召還され、台湾の与党議員などから「屈辱を受け」辞任した。その後任に何人もの名前が挙がりながら、なかなか決まらず、4日現在で着任していないのは、馬政権下の日台関係の難しさを象徴している。

 対米関係も微妙だ。ブッシュ米政権は馬総統の「統一も独立も武力行使もしない」対中政策を当初は歓迎したが、最近は「急速な中台接近に不安を感じ始めた」(米台関係筋)ようだ。

 米太平洋軍のキーティング司令官は7月16日のワシントンでの講演で、台湾空軍の主力戦闘機となっているF16の追加輸出を当面凍結する米当局の方針を明らかにした。

 馬政権の登場で「当面、中台の武力紛争が発生する可能性が非常に低下した」(キーティング司令官)ことが表向きの理由だ。これには「米国務省内の対中融和派の意向」とも、「中国に急接近する馬政権の動向を慎重に見守る必要が生じたため」などとさまざまの観測が流れている。

 ともあれ中国の急軍拡に台湾が手をこまぬいていれば、「台湾が中国と対等に交渉をすることさえ難しくなる」(ランディ・シュライバー前米国務次官補代理)との懸念も強まっている。日米中台の4角関係が揺れている。(産経新聞編集委員兼論説委員)

by deracine69 | 2008-08-05 23:59 | アジア・大洋州  

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