メディアはまた自民党に躍らされるのか~“テレポリティクス”を斬る

福田首相辞任から始まっている今回の「メディアジャック」
2008年10月2日 日経ビジネス オンライン 藤田康人

 自民党麻生太郎内閣が誕生し、メディアは来るべき解散総選挙の話題で溢れています。今回の総選挙で自民党が勝つか民主党が勝つかで、今後の日本の将来が大きく変わることは間違いありません。今回こそは特に、そんな国の行く末を担う重要な選挙であることを有権者たちは、しっかり自覚して投票をすべきでしょう。

 そんな中で、私が個人的に非常に危惧しているのが、2005年の郵政選挙における小泉劇場のような政治ワイドショーが再上演されてしまうことです。

してやったりの偏向報道

 あの当時、解散が行われた時点で情勢は民主党、自民党ほぼ互角で、やや民主党有利でさえあると言われていました。多くの世論調査でも郵政民営化の賛否は分かれていて、分裂選挙になった自民党が選挙戦を有利に戦えるはずがないという意見も少なくありませんでした。しかし、自民党は「小泉純一郎首相」を前面に出し、解散直後の記者会見をイメージしたテレビCMを作製し、解散後、内閣支持が上昇していると見て、4年前の就任直後の「小泉ブーム」の再現をねらいました。

 全体を統括したのは、元NTTの広報マンだった当時の世耕弘成広報本部長代理を中心に、PR会社社員らも加わった「コミュニケーション戦略チーム」で、顧問に竹中平蔵郵政民営化担当相を迎え、「郵政民営化への再挑戦」を訴える首相を効果的に演出する方針を打ち出しました。

 インターネット上のブログなども活用し“短期決戦なので、いかに自民党に興味を持ってもらうかが勝負”という世耕氏の戦略の下、人目を引く佐藤ゆかり、小池百合子、堀江貴文といった刺客候補が、次々に党選対本部から民営化反対の造反議員の選挙区に繰り出され、マスコミがそれを追いかけ、ワイドショーは、改革候補の戦いを熱狂的に応援する偏向報道に終始したのでした。

 マスコミが小泉改革側についた時点で勝敗は決まり、郵政民営化への賛否を曖昧にした民主党は蚊帳の外に置かれ、選挙戦の舞台の脇役に押しのけられて、政策主張も公平に取り上げられることはありませんでした。

 刺客、ワンフレーズ――これらの実に巧みな小泉首相のメディア戦略は、テレビが政治のあり方を左右する“テレポリティクス”と呼ばれるもので、1960年にニクソン対ケネディで行われた米大統領選挙で生まれた言葉だと言われています。

メディアが鳴らす“メディアジャック”への警鐘

 今回の総選挙でも、実は福田康夫首相の突然の辞任から自民党による“テレポリティクス”が既にスタートしていると見るべきでしょう。

 総裁選に5人の候補を乱立し、メディアジャックを敢行して、民主党を一切のメディアから締め出すことにより、総裁選の争点をそのまま総選挙の争点にしようという目論見が明白です。そんな自民党の戦略に対して、既にメディアの側からも警鐘を鳴らす動きが出始めています。

 東京新聞でこんな記事を見つけました。(記事から一部引用)

自民党総裁選報道の『劇場化』警戒 「メディアジャックすれば有権者が自民に戻ってくると思っているようだ」と指摘する声も

 十日告示される自民党総裁選に向け、メディアの報道が過熱している。自民のメディア戦略に踊らされた「小泉劇場」の二の舞いを危惧(きぐ)する声もあるが、 今回は少し様相が異なるようだ。

 「この方たちのニュースで各新聞がもういっぱいで、民主党のニュースが少なくなっちゃったような気がするんですけど」。六日のTBSの情報番組で、司会の、みのもんた氏は総裁選に意欲を示す政治家の写真パネルを前にコメントした。 そんな中、七日のフジテレビ「サキヨミ」は総裁選報道を検証。 二~六日にテレビ各局が伝えた時間を集計(百八十一番組計六十時間三十五分)、 小泉劇場の「既視感がある」と警鐘を鳴らした。

 「小泉劇場ではメディアが完全に踊らされたが、今回は茶番やシナリオといった批判もセットになっている点が少し違う」。「政党が操る選挙報道」の著書がある鈴木哲夫・日本BS放送報道制作部長はこう分析する。

 解散・総選挙への流れも加速する中、草野厚・慶応大教授は指摘する。「総裁選を派手にやった方がメディア受けもいい。しかし、小泉劇場の時とは違う。有権者は、安倍、福田内閣の二年間で問題が自民党政治にあることを見抜いている。メディアジャックをすれば、有権者が自民に戻ってくると思っているようだが、今回はちょっと違うと思う」
 マーケティング領域において、PRが日本とは比べ物にならないくらい積極的に活用されている米国において、政治についてもPRの役割は非常に重要です。米国のPR会社は、日本での広報代行業というイメージとは全く異なる、プロの“政策ロビイスト集団”という側面が非常に強い企業体です。

 各業界団体や政府、政党内部に非常に強いコネクションを持つ官僚OBを数多く社員、契約コンサルタントに抱え、クライアントである政党や政治家の政策を十分に理解したうえでメディア戦略を立案し、実行する能力を持つ経験豊富な人材を揃えています。そんなメディア戦略のプロフェッショナルである米国のPR会社は、過去米国のみならず世界の政治情勢にも、多大な影響を与えてきました。

世界に影響力を与えられる人間になりたいから…

 実際に、湾岸戦争やボスニア紛争においても巧妙なメディア戦略で情報操作を繰り返し、米国に有利な世論を作り上げることに大きな役割を担ったことが知られています。『ドキュメント 戦争広告代理店』はボスニア紛争時の米国のPR会社の暗躍ぶりを紹介した本で、世論形成に対するPRの役割と実際のプロセスが非常にリアルに描かれています。

 私が過去接した多くの日本のPR会社の人たちがこの本を読んでいました。この本を読んでPR会社で働こうと決めたという若いPRマンにも、何人か会ったことがあります。なぜかと理由を聞くと多くが“自分もいつかPRを駆使して、世界に影響力を与えられる人間になりたいからです”と答えました。

 私はその答えを聞くたびに不安に思うことがあります。“世界への影響力に負の側面もあることを君たちはきちんと理解しているか?”と思わず聞き返したくなるのです。

 湾岸戦争は確かに米国にとって政治的に必要な戦争だったのかもしれません。しかし、それによって世界は本当に幸せになったのでしょうか? 米国人兵士も含めてどれだけ多くの命が失われたのでしょうか?

本当に責任が持てるのか?

 自分がPRマンとして政治案件に関わり、クライアントである政党や政治家からのオーダーに応じて、自分の立案したメディア戦略が、目論見通りに世論に影響力を与えることができたとして、その結果起こる事象に対して本当に、覚悟して責任が持てるのか? 私を含めてPRに関わるすべての人間は、この意識を常に強く自覚すべきです。

 2005年の小泉郵政選挙に関わったPR会社のある社員に“あなたの会社はなぜこの政治案件を引き受けたのだと思いますか?”と聞いた時の答えは“この仕事が成功すれば我々の会社の名前が有名になるからだと経営陣から聞いている”というものでした。

 今回の総選挙にも広告代理店、PR会社が既に投入されて動き始めています。これから様々なメディア戦略が仕掛けられてくるでしょう。今のところ幸いにもメディアは前回の反省を踏まえて、ある程度冷静を保っているようにも見えます。

 しかし、最も大事なことは我々有権者一人ひとりが、メディアに踊らされることなく、しっかりと政策を見比べるリテラシーを持つことです。プロのマッケーターとしては、両党がどんなメディア戦略を仕掛けてくるのか非常に興味津々なところではありますが・・・。

 いずれにしても今回の総選挙は、日本の歴史の大きなターニングポイントになることは間違いないでしょう。

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by deracine69 | 2008-10-02 08:00 | 政治  

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