職場が大混乱! 「スピリチュアルにすがる女」「胡散臭がる男」

――なぜ女性は「スピリチュアル」にハマるのか?
2008年10月17日0時1分 ダイヤモンド・オンライン 西川敦子(フリーライター)

「この仕事は私の天職ではありません。辞めたいんです」

 思いつめた表情の女性部下から突然そう言われて、中田堅司課長はたじろいだ。

「だって、まだ中途入社してから1年経っていないよ。少なくとも4、5年は頑張らないと、仕事は身につかないんじゃないか? だいたい天職に就ける人間なんて、そういるもんじゃない。みんな与えられた場で頑張っているうちに、少しずつプロになっていくんだ」

「天職は誰にでもあります。魂を喜ばせるためにする仕事が『天職』なんですよ。生きる糧を得るための仕事は『適職』にすぎません。私はこれまで4回、転職しましたが、結局天職に出会うことはできなかった。きっとどこかにあるはずなんです」

 思わず沈黙してしまった中田課長。彼女の言うことはまるで理解できない。魂が喜んでいないから転職するだって? 最近は若い男性も簡単に会社を辞めてしまうが、こんな理由は聞いたことがない――。

「胡散臭い」?「魂が向上する」? 流行のスピリチュアルの実態とは

 近年、30代前後の女性たちが、「前世」「霊」「オーラ」といった言葉をよく口にするようになった。彼女たちが信じているのはスピリチュアリズム、通称「スピリチュアル」だ。霊の存在や、霊と人間の交流を信じるという意味で、テレビ朝日の「オーラの泉」からブームに火がついた。

 ブームの中心となっているのが江原啓之氏。彼に傾倒する女性は非常に多く、「エハラー」などとも呼ばれている。最近では、癒しカウンセリングやお守りの販売など、さまざまなビジネスにも発展。全国60ヵ所ある会場では、11万人が参加するという大見本市「すぴこん(スピリチュアル・コンベンション)」まで開催されているという。

「霊との交流」というとまるで新興宗教のようだが、スピリチュアルには教会はない。多くのエハラーたちは組織に属することなく、本やテレビなどを通じ、静かにその教えを学んでいるようだ。仕事面でのプラス効果もあるらしく、筆者の周りのエハラーはいつも同僚に優しく接し、つらい仕事にも音を上げない。

 ところが中には、「波動の合わない人といると具合が悪くなる」「ここは自分にとって学びの場ではない」と仕事を辞めてしまう人もいるという。江原氏の説くスピリチュアルでは、苦難は魂を磨くための大切なプロセス。けっして無責任な退職を勧めているわけではないらしいが、自分に都合のいい解釈をする傾倒者も少なくない。

 そんなこともあり、スピリチュアルブームを「胡散臭い」「不可解きわまりない」と見る人もいる。とくに男性の間では抵抗感が強いようだ。

「結婚前うちの奥さんがはまっていましたね。私にも関連本を勧めてきました。『くだらないからやめろ!』とはっきり言い渡しましたよ。霊との交信なんて、まともな大人が信じることじゃないでしょう。以来、彼女は一切スピリチュアルのことを口にしなくなりました。部屋にあった本も見かけなくなったので、今は熱が冷めたんじゃないですかね」(IT関連会社勤務 30代男性)

「僕の周りにも2人ほどいるんです。『今の自分を愛せばいい』という彼女たちの言葉には、抵抗を感じちゃいますね。自信が持てないから、自分にそう言い聞かせて安心したいのでは?なんだか、いつも自分を受け入れてくれる相手や環境を探しているようにも見える。仕事を頑張って、自信を獲得しようとは思わないのかな」(出版関連会社勤務 20代男性)

女性がスピリチュアルにハマるワケ

 いったいなぜ女性たちの間で、これほどスピリチュアルが広まっているのだろう。スピリチュアリズムの研究者である慶応義塾大学准教授 樫尾直樹氏に聞いてみた。

「スピリチュアルブームは今に始まったことではありません。テレビ・メディアの開花とともに、超常現象などへの関心も広まり、70年代頃から何度か大きなブームが訪れています。超能力者を名乗るユリ・ゲラーのスプーン曲げなどはその典型でしょう。

 ただ、江原啓之氏を中心とする今のブームには、これまでと違う点もある。担い手の心理です。現代は不確実性の時代。政治も社会も経済も混迷し、人々はただならぬ不安のなかに生きている。だから、『運命を予知したい』『目に見えないものをみきわめたい』という欲望を抱きやすいのです。そのための解決策が、スピリチュアルといえるでしょう」

 樫尾氏は、女性に傾倒者が多い理由として、「生理」や「出産」などの身体特性を挙げる。

「男性と違い、生理のある女性は、それだけ自分の身体を身近に感じる機会が多いはず。出産により、死と隣り合わせの体験をする人もいる。生理も出産も、自分の意志で100%コントロールすることはできません。当然、大いなる自然によって生かされている自分を感じる機会が多いはずです。これに対し、仕事上の成功やマイホームの獲得によって自己実現欲求を達成する男性は、女性の感じる身体性とは程遠い場所に生きています。多忙なビジネスマンほど、その傾向は強いのでは」

なぜ女性は「自己実現欲求」に駆り立てられるのか?

 ただ、スピリチュアルにはまる女性の中には、もともと「自分探し」の好きなタイプが多いようだ。

「彼女たちは、確固たる価値観や世界観を持つことができず、不透明な未来に悩み、怯えていた。だから、祖先や前世、霊といった見えないものとの関係を作り出すことで、自分の位置を探しているのでしょう。ただし本来、自己実現など幻想にすぎません。それなのに、消費社会に生きる現代人たちは、お金さえあれば自分の未来も操作できると思い込んでいる。分をわきまえることが美徳とされた時代は、すでに過去となってしまいました」

 じつは、当の江原啓之氏も自著「苦難の乗り越え方」(PARCO出版)で、次のように述べている。

「私のメインの読者はだいたいが主体性欠如の人たちです。偏差値教育で順位をつけられて、“いい子”であることを求められてきた世代です。そのせいか、スピリチュアリズムも一生懸命に本を読んで理解すればいいんだろうと、わかったふりをしたがる習性がついているように思います」(「苦難の乗り越え方」より抜粋)

 働いている独身女性だけでなく、子育てが一段落した既婚女性もはまりやすい、と樫尾氏。家庭や子どものために見失った自分を取り戻し、アイデンティティを再確認しようと、スピリチュアルに惹かれていくという。

 一部の「主体性欠如」の傾倒者たちは、現実逃避の手段としてスピリチュアルを利用してしまうのかもしれない。たとえばこんな具合である。

■仕事がうまくいかない→「天職」ではないから
■既婚者に恋をした→「ソウルメイト(魂の伴侶)」なので手放してはいけない
■家族に自立を求められている→愛が欲しいのに満たされていない「愛の電池不足」だ

「いい子」を演じ主体性を失う女性たち

 問題は、主体性や自信を持てずに苦しむ女性がそれだけ多いという事実だ。

 経済産業省の調査(2006年)によれば、新人に「主体性」を求める企業は8割超に上っている。たしかに最近、自ら課題に取り組む「自律型人材」育成の動きは活発だ。だが、一方で企業は「忠実に職務をこなしてくれる人材」も確保しておきたいのではないか。

 そして、その役割はいまだに女性たちが担っている。男性ほど職場で活躍できない女性の中には、主体性を発揮するチャンスが少なく、「もっと別の場で成長したい」「仕事で充実感を得たい」と考える人もいるかもしれない。

 樫尾氏が指摘するように、今はだれもが自己実現欲求を持つ時代だ。そんな時代の空気に追い付いていけないジレンマが、彼女たちを焦らせ、悩ませるのではないだろうか。

 また、日本型の良妻賢母教育は「自分を殺す」教育だった。その伝統はいまだに女性の生き方に影響している。ついつい、「よい成績をとるいい子」「職場で役に立つ優秀な女性」「子育ても仕事も手抜きしないお母さん」を演じてしまうのだ。いくら業績を上げたところで、それが演技である以上、ほんとうの主体性や自信にはつながらない。

あなたの妻、恋人、部下がハマったら・・・

 スピリチュアルによって、その悩みが解消するのであれば問題はない。

「前世や未来といった『自分の物語』を得ることで、生き生きと生きられれば、それはそれですばらしいことです。人は根本的に、なんのために生きるのかという実存的な渇きを持っているもの。目に見えないものを切り捨てがちな今の時代、その渇きを癒すことができる彼女たちは、幸せともいえます」(樫尾氏)

 とはいえ、一時のブームに踊らされているだけの女性は、また同じようなむなしさにとらわれないとも限らない。そんな場合は、むなしさの正体と真正面から向き合うしか、乗り越える方法はないのではないか。

 盲目的にスピリチュアルに傾倒している女性は、男性からするとやや近寄りがたい存在かもしれない。だが身近な人がそうなった場合、むやみに否定するのではなく、その心情の背景に目を向けてみてはどうだろう。ひょっとすると、彼女たちはどこかで自分を殺してはいないだろうか? 職場でも家庭でも完璧主義に徹し、疲れている様子があれば、助け船を出さないと潰れてしまうかもしれない。

 もちろん、「魂が喜ばない仕事はイヤ」とゴネるような部下には、はっきり「NO」を言い渡そう。職場は「学びの場」である以前に「働く場」なのだから。
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by deracine69 | 2008-10-17 00:01 | 社会  

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