テロへの危機感 常に必要

2008年11月20日 朝日新聞
佐々淳行 元内閣安全保障室長

 1971年の暮れ、当時私の上司だった土田国保警視庁警務部長(元警視総監)の自宅に小包爆弾が届き、夫人が死亡するという事件があった。そのとき土田さんは記者会見で「私は犯人に言う。君らはひきょうだ」と言ったが、今回はそれとまったく同じことを感じる。ひきょうきわまりない犯罪だ。

 ただ、土田事件にははっきりとしたイデオロギー的な背景があり、事件のスジが読めた。それに比べると、今回の事件はスジが読めない。

 標的になった元次官が2人とも年金畑で、社会保険庁長官経験者であることから、年金問題への怒り、いわば「公憤」が誤った方向に爆発したという推測もできる。だが、一般人が、元次官2人の経歴や住所などの個人情報を知っていたのも不自然だ。個人的な恨み、私恨による犯行という可能性も捨てきれないのではないか。

 同期はどうあれ、このような事件の再発を防ぐにためにはどうすればいいのか。最も重要なのは、言うまでもなく犯人の早期逮捕だ。検挙に勝る防犯はない、

 また、今回の事件で危険なのは、犯行に影響されて模倣犯が出現することだ。犯人を一種のヒーローとして祭り上げるような風潮を許してはならない。その点でマスコミの責任も重大だ。

 同時に各省庁の幹部やOB、政治家は、もっと自分の身を守るという意識を持つべきだろう。今の警察の人員では、あらゆる危険に対応するのはとうてい不可能だし、いつまでも警備を続けるわけにはいかない。政治家や官僚はリスクを背負っていることを自覚し、訪問者には慎重に対処したり、警備会社を使ったりして、「自主警備」をすべきだ。「自助、公助、互助」が危機管理の鉄則。警察という公助や、隣人などの互助も大切だが、まず自助なくしては犯罪は防げない。

 現代社会では、残念なことにテロや暴力犯罪の危険なことにテロや暴力犯罪の危険をなくすことはできない。ここ30年ほどの間、オウム真理教事件や9・11同時多発テロなどはあったにせよ、普通の日本人にとってテロは別世界の出来事で、危機感が失われてしまったのではないか。いつ起こっても不思議はないという緊張感を持ち続けることが、今回のような事件の再発を防ぐ唯一の方法だろう。


 30年生まれ。警察庁警備局警備課長、三重県警本部長、防衛施設庁長官などを歴任。
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by deracine69 | 2008-11-20 06:00 | 社会  

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