改革を潰す「国民の敵」松田隆利と更なる悪漢

2008年11月19日19時0分 フォーサイト

公務員制度改革を葬り去ろうとする面々とは、財界・御手洗冨士夫、政界・中馬弘毅……。次回は財務省と経産省から名指ししよう。

「官僚は使いこなすこと」「官僚は、わたしとわたしの内閣にとって敵ではない」――。

 麻生太郎新総理は、就任以来くどいほどに、このメッセージを出し続けている。一般の国民からすると、なぜそんなことを強調するのか全く理解できないが、霞が関の官僚にとっては拍手喝采に値するメッセージらしい。

 ある経済官庁幹部はこう解説する。「つまり、福田内閣や安倍内閣は官僚バッシングの誘惑に負け、公務員制度改革などという愚行に走った。自分は賢いからそんなことはしない、と宣言したわけだ」。

 ならば、すでに進行中の公務員制度改革はどうなるのか。福田政権末期、政治の混乱に乗じ、公務員制度改革事務局の松田隆利次長(前総務事務次官)を中心に、骨抜き工作が動き始めたことは10月号でも紹介した。

 要するに、総務省の行政管理局と人事・恩給局の二局を母体として四百人規模の内閣人事局を創設。人事院の膨大な人事院規則や財務省の給与査定には何ら手をつけず、能力・実績主義の徹底、給与体系の抜本改革、定年延長や役職定年の導入、労働基本権拡大といった実質的改革は全て先送りした。

 天下りも温存される単なる組織改編だから、霞が関にとっては痛くも痒くもないプランだ。

 麻生政権に代わり、骨抜き工作で松田氏とタッグを組んできた二橋正弘官房副長官は退任したが、相棒に去られた松田氏はパワーダウンどころか、さらに暴走を加速しているという。

 十月初旬、改革のお目付け役である顧問会議の一部メンバーに限定配布されたスケジュール表によれば、「十一月下旬までに要綱を(政府の)推進本部決定」とある。つまり、法案準備に先立って大枠を閣僚レベルで決定し、ピン止めする。その最も重要なプロセスを、ちょうど総選挙が見込まれる時期にぶつけ、事実上の政治空白期間に固めてしまおうというわけだ。

「予算措置が必要」の大ウソ

 九月二十三日の顧問会議会合で、「なぜそんなに急ぐのか」と疑問を呈するメンバーに対し、松田氏は「基本法で、一年以内を目途に法制上の措置を取るというスケジュールが決まっている。すると当然、内閣人事局を早く設置すべきということになる。そのためには十二月までの予算編成に間に合わせないといけない」と説明した。

 少し分かりにくいが、ここでいう「法制上の措置」とは、人事局設置を確定する法案の国会提出、「設置」とは、人事局が実際に立ち上がり稼動することを、それぞれ指す。

 ショッピングセンターの開発計画にでもなぞらえれば、松田氏の説明は詭弁とすぐ分かる。会社の方針で、開発計画の“正式発表”は一年以内にせよと決まっているが、完成して“営業開始”の時期までは未定。ともかく社運をかけ、画期的な施設を作ろうという一大プロジェクトだ。ところが、担当次長は「“正式発表”すると、当然すぐに“営業開始”せよという議論になる」と屁理屈をつけ、およそ客を呼べそうにない安直な店舗計画を振りかざして、「これで進まなければ間に合わない」と言うのだ。

 だが、「政治主導」が難しいこの時期に、予算措置にまで踏み込む必要は全くない。結局、来年度“営業開始”にこだわる理由はただ一つ。政治サイドから余計な雑音が出ないうちに、骨抜きプランでさっさと固めてしまいたいだけだ。

 到底、納得のいかない顧問会議メンバーらに対し、松田氏の殺し文句は、「年末の予算編成に間に合わなければ、“改革先送り”と叩かれる」。つまり、あなたが抵抗勢力として叩かれますよ、と水面下で脅すのだそうだ。

 ところが、取材を進めると、叩きそうな関係者はどこにも見当たらない。政府の“改革先送り”を叩くとすれば、まず民主党だが、彼らは実は正反対の立場だ。十月一日に民主党行革調査会(松本剛明会長)を開催し、改革事務局から状況を聴取したが、その場で民主党側から「選挙前や選挙直後に、政治の意思なく、事務局だけで案を固めてしまうことのないように」と、強く釘を刺している。彼らとしては、総選挙で政権を獲得したときに“骨抜き法案”が固まっていたのではやりづらい。余計なことを進めないでほしいのだ。

 一方で、自民党議員を取材すると、「選挙前に骨抜きプランが新聞に出たりしたら、選挙でマイナスになるだけ。当面は顧問会議で大所高所の議論をしたらいい」との声が多い。立場は異なるが、与野党とも、年末までの拙速な進行など望んでいない。結局、松田氏は、いもしない“狼”を仕立てて、暴走に拍車をかけているわけだ。

 ただ、松田プランが思い通りに進みそうかというと、そうでもない。「ここに来て、抵抗勢力の真打が登場した」(中堅官僚)という。

 松田氏の“総務省二局分離案”は、一応は改革の装いを凝らした骨抜きプラン。これに対し、霞が関の主力勢力、はっきりいえば財務省と経済産業省は、この政権では、もはや改革を装う必要すらないと方針転換し、内閣人事局は看板を作る程度にとどめ、中身は完全に空っぽにしようと動き始めたらしいのだ。

 彼らにとって、松田プランは大して実害はないが、とはいえ下手をすれば、自省の幹部人事を(総務省に統合された)旧行政管理庁系官僚に牛耳られることになりかねない。できれば潰したいわけだ。

 甘利明行革担当大臣の発言を聞くと、「年末の予算措置」云々は松田氏の詭弁にすっかり騙されていた気配もあるが、同時に“真正守旧派”の影もちらつく。例えば「内閣人事局の器は、小さなものに」という発言だ。必要な機能を検討した上で、行革の観点から組織を最小規模にするのは当然だが、端から「小さな」と強調するのはいかにも不自然だ。内閣人事局をできるだけ弱体化・形骸化したい財務・経産勢が囁いているのではないか。

 こうして、“改革派”対“(改革を装った)骨抜き派”の争いに“真正守旧派”が参戦し、構図は三つ巴になった。いや、“改革派”はほとんど駆逐され、守旧派同士の矮小な内輪もめになってしまったと見るべきか。

顧問会議録ビデオを改竄

 この状況下、改革の灯火をつなぐ望みはあるのか。

 まずは自民党。総裁選で「霞が関をぶっこわす」とぶち上げた小池百合子氏、そのバックにいた改革派の首領・中川秀直氏らは、今や党内で声もあげられない状況だ。

 一方、自民党行政改革推進本部(中馬弘毅本部長)は相変わらず“改革抵抗本部”。麻生総理を官邸に訪ねた中馬氏は、「内閣人事局に強力な権限を持たせ独立愚連隊みたいにしてはいけない、ということで総理と一致」と記者らに語った。改革に後ろ向きな総理に尻尾を振りにいったわけだ。

 片や民主党。こちらは、政権獲得も視野に真剣な対応を始めており、期待が持てる。前述の行革調査会では、「現在の事務局では、人事局ができてからやればよい(細部の)検討ばかりやっていて、労働基本権や幹部公務員制度のあり方など、本来やるべき検討は遅れている」 「検討の順序が違うまま、内閣人事局の機能や組織をフィックスされても困る」といった、極めてまっとうな意見も出た。

 ところが会合後、事務局から甘利大臣に報告されたという資料をみると、こうした点は割愛して、事務局にとって無害な意見ばかり報告されている。情報操作に長けた霞が関官僚の面目躍如。野党の座にあっては、官僚の暴走を止めようと動いても、その事実すら封印されるのだ。

 もう一つの頼みの綱、顧問会議はどうか。結論からいうと、残念ながら顧問会議は事務局“骨抜き派”にほとんど乗っ取られたに近い。

 麻生内閣発足前日の九月二十三日、第二回顧問会議会合を開催。第一回会合で「座長をおかない」との事務局案が一斉攻撃されたことを受け、御手洗冨士夫・日本経団連会長が座長に選任された。ところが、「座長をおかない方がよほどまし。あれでは、役人がお面をかぶって座長をやっているようなもの」と事務局職員が吐き棄てたほど、とんでもない議事運営ぶりを見せた。

 会議では、内閣人事局の設置だけ急ごうとする事務局に抗し、桜井正光・経済同友会代表幹事、高木剛・連合会長、作家の堺屋太一氏らが一斉に、「理念に立ち返って、全体像を議論すべき」との方向で発言。松田氏と同じく旧行管庁出身の田中一昭氏らごく一部が事務局寄りの発言をするも、議論の大勢は明らかだった。

 ところが、御手洗座長は討議を打ち切るや、事務局のメモを読み上げ、「ここは理念を議論する場ではない。内閣人事局の設置を急がないといけない」と多数派の主張を全面否定。すでに松田次長の傀儡になり下がっている立花宏事務局長(前経団連専務理事)とともに「経団連が公務員制度改革潰しの先導役になってしまった」と、事務局民間出身者たちは肩を落としているという。

 極めつきは、会議録ビデオの改竄。会議終了直前、御手洗氏の暴走ぶりに桜井氏がかみつき、言い合いめいたやり取りになる。「御手洗氏は、台頭著しい同友会を叩こうと、わざと桜井氏をいじめた。守旧派経団連vs.改革派同友会の紛争勃発だ」と経済部記者に即日伝わるほどインパクトある場面だったが、インターネット公開中のビデオでは、この部分が完全削除されている。

 それも、会議終了後に記者らの目の前で、御手洗氏から立花氏を通じ、事務局職員に削除の“指示”がなされたというのだから、不適切という認識すらなかったのかもしれない。

 十月十五日以降、桜井氏を主査とするワーキンググループが立ち上がるが、乗っ取られた顧問会議を取り戻すことができるのかどうか。この政権では、改革実現の糸口は見えそうにない。
筆者:ジャーナリスト・白石 均 Shiraishi Hitoshi
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by deracine69 | 2008-11-19 19:00 | 政治  

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