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<フセイン死刑執行>論文 振り回された国際社会

12月31日0時53分配信 毎日新聞

 今日の中東を中心とした国際秩序を眺めた時、フセイン元大統領がイラクの大統領に就任した79年以降、イラクは秩序形成の舞台回し役の多くを担ってきた。

 元大統領が権力隆々だった80年代はもちろん、湾岸戦争によって“張り子の虎”となった90年代以降も、挑発行為で米国の神経をいら立たせ、国際関係を緊張させてきた。イラク戦争もフセイン元大統領抜きにはあり得ず、その意味では元大統領亡き後も、イラク国民、国際社会は振り回され続けることになる。

 豊富な原油資源をもつイラクは、賢明な指導者に恵まれていたら、中東屈指の豊かな国になっていたはずである。その機会は何度もあった。70年代末、米国の有力な研究所は「フセイン(元大統領)の下で、イラクは将来、中東随一の豊かな国になるだろう」との報告を出している。しかし元大統領はその機会をつかみ損ねた。

 元大統領は指導者として決定的な判断ミスを三つした。イランへの侵攻(80年)、クウェート侵攻による湾岸危機と戦争(90~91年)、イラク戦争(03年)である。

 対イラン戦争では、革命直後の混乱にあったイランを結束させ、8年間の戦争に引きずり込まれた。膨大な原油収入が武器購入に充てられ、それでも足らず巨額の債務を背負った。

 ただ対イラン戦争に事実上勝利した元大統領は、この時点で国家再建にまい進することは十分可能だった。しかし集積した軍事力を解体せず、それをクウェート侵攻に向けた。イランが軍事力を解体し、それを国土復興に向けたのと対照的である。

 イラク戦争でも、元大統領は米国の断固たる意思を読み違えた。

 元大統領の冒険主義について、私がインタビューしたイランのバニサドル元大統領は「彼は民主的な選挙で選ばれておらず、領土征服によって正統性を手に入れようとした」と述べている。

 ただ指摘しなければならないのは西側、特に米欧の責任である。対イラン戦争時、反イランの立場から、米国は衛星写真などの情報を、フランスは対艦ミサイルや戦闘爆撃機などを提供するなど、米欧はこぞってイラクを支援した。

 フセイン元大統領が「米欧は自分の言いなりになる」と誤解したのも無理からぬものがあり、その“増長”がクウェート侵攻につながった。その意味でフセイン元大統領という“鬼っ子”を生み出した責任の一半は米欧にもある。

 今日のイラクの混乱を見るにつけ、「ここまで至るのは避けられたはずだ」と思う。節目は幾つもあった。しかし元大統領も、国際社会も、それを逃した。

専門編集委員・西川恵

by deracine69 | 2006-12-31 00:53 | イラク戦争  

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