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貧困の光景 [著]曽野綾子

[掲載]2007年02月18日 朝日新聞
[評者]角田光代(作家)

善意の届け先の現実を直視

 テレビ画面に痩(や)せこけた異国の子どもが映る。たった百円で何人の子どもの命が助かるとアナウンスが流れる。募金先が提示される。心を動かされれば、人は幾ばくかの寄付をする。これはまぎれもなく善意だ。しかしその先を、私たちは考えない。ある金額を寄付した段階で、私たちは何人の子どもの命を救ったと思いこむ。善意は善意のままだれかに届くと、まっさらな善意で錯覚する。

 本書は、善意で止まってしまう私たちの想像力の、その先を書いている。

 キリスト教徒として生きる著者が、貧困にあえぐ地域を実際に訪ね、底なし沼のような果てのない風景を描き出す。同情やきれいごとをさっぱりと拒絶し、貧困というものの正体を見極めていく。同時に、年収の差異で格差を語る豊かな私たちの、想像力の麻痺(まひ)をも静かに指摘する。貧困の風景とは、まさに何かに鈍磨した日本の風景でもあるように、私には思えた。

 「ならば、どうすればいい」という解答は、ここにはない。著者の味わう絶望を、読み手も味わうことになる。しかし、絶望からはじめなければならないこともある。少なくとも、著者がその手で得た希望は、そこから生じている。

by deracine69 | 2007-02-18 23:59  

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