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安倍外交 「価値観」もほどほどに

2007年8月23日 中日新聞

 安倍晋三首相がインド国会での演説で、日米豪印四カ国の連携強化を訴えた。価値観を共有する各国との結束は重要だ。ただ、度が過ぎると、他国に誤ったメッセージを送ることになりはしないか。

 首相は十九日からインドネシア、インド、マレーシア三カ国外遊の旅に出掛けている。参院選惨敗で政権の混乱が続く折から、与党内には「外国に行っている場合か」との不満もあった。

 首相としては「主張する外交」の柱と位置づける「価値観外交」の推進によって、一定の成果を挙げたいとの切実な思いがあったようだ。

 基本戦略は、自由、民主主義、基本的人権といった価値観を共にする国々と、安全保障、経済、人的交流などでの連携強化を目指す。軍事、経済面で台頭著しい中国をけん制する意味合いもある。

 今回、最重視した訪問国は、急速な経済成長を続ける大国インド。首相は演説でまず「世界最大の民主主義国において国権の最高機関で演説する栄誉に浴した」と語った。その上で、両国のパートナーシップの強化が米国や豪州を巻き込み、太平洋からインド洋にかけた「拡大アジア」の発展につながると提唱した。

 自著「美しい国へ」の中でも、首相は日米豪印の連携に向け、日本のリーダーシップの必要性を強調している。今年三月には日豪首脳会談で「安全保障協力に関する共同宣言」に署名した。まさに自らの手で、四カ国の枠組みをがっちり固めているつもりなのだろう。

 しかし、考えておかなくてはいけないのは、その副作用だ。日本が米豪印と結束すればするほど、例えば中国は「包囲網」を築かれていると警戒感を強めることになる。アジア諸国への慎重な配慮は欠かせない。

 米豪印も同様の理由から、四カ国の連携が突出することには慎重だ。ライス米国務長官は先に訪米した小池百合子防衛相に「中国に思いがけないシグナルを送る可能性がある」と、ブレーキをかけたほどだ。

 首相が独り相撲を取っているようにも見える。安全保障、経済にとどまらず、温暖化対策など地球レベルの危機を考えれば、必要なのはきな臭い包囲網ではなく、共通のテーブルだろう。

 インド訪問で首相が力点を置くべきは、唯一の被爆国としての日本の立場である。インドが核拡散防止条約(NPT)に加盟しないまま、核開発競争につながりかねない米国との原子力協力協定に合意し、隣国パキスタンを刺激している。首脳会談で苦言を呈することこそ「主張する外交」にふさわしい。

by deracine69 | 2007-08-23 08:00 | 政治  

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