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四川大地震で浮上した“2008年例外説” 08年8月8日8時・・・「8」はラッキーな数字?

2008年5月23日 NBonline 北村 豊

 北京オリンピックは2008年8月8日の現地時間夜8時に開幕する。中国で吉祥を表す数字である「8」は、広東語では「発」と同じ発音なので、「発財」(=金持ちになる)を意味する。ちなみに、香港や広東省などの広東語地域では新年の挨拶は「恭喜発財」(=お金が儲かりますように)である。この吉祥の「8」を4つも並べたところに、北京オリンピック開催に懸ける中国政府の並々ならぬ意欲が示されている。北京オリンピックを通じて国威を発揚し、世界の一等国の仲間入りを果たそうと考えている中国にとって、2008年はその礎となる重要な年なのである。

重要な2008年は年初から波乱万丈の様相

 ところが、その重要な2008年は年初から波乱万丈の様相を呈した。1月25日には中南部で50年ぶりと言われる雨雪と異常低温により雪害が発生し、交通機関が混乱したことで2月7日の春節までに故郷へ戻ろうとした数百万人が足止めを喰い、農業を含む産業全般に甚大な損害を与えた。また、3月14日にはチベット自治区の首府ラサでチベット族による暴動が発生し、たちまちの内にチベット自治区のみならずチベット族が多数居住する青海省、四川省北部、甘粛省南部などに飛び火し、中国政府はその鎮圧に精力を費やした。

 そして、5月12日には四川省でマグニチュード8.0の大地震が発生したのである。震源地である“ブン川県”(ブン=さんずい+文)は四川省の省都、成都から北へ約100キロメートルの距離にあり、地震とそれに伴う山崩れによる建物の倒壊は犠牲を甚大なものとし、中国政府は5月15日時点で“四川大地震”による死者は5万人を超えるとの予測を発表したが、行方不明者を含めると犠牲者数は6万人を超えるものと予想されている。

 ところで、これら一連の“事件”を踏まえて、中国語インターネットの掲示板には、“「8」の偶然の一致”という表題で次のような書き込みがなされている:

[1] 四川大地震の発生日である5月12日は、北京オリンピックの開幕日である8月8日から逆算するとちょうど88日目に当たる。
[2] 1月25日の雪害、3月14日のチベット暴動、5月12日の四川大地震。これら月日の数字を足し算してみると、1+2+5=8、3+1+4=8、5+1+2=8となり、合計はすべて8となる。
[3]「 四川」という漢字の画数の合計はちょうど8になる。
[4] さらに、「四川」という2文字には「八」という文字が2個含まれている。 
<筆者註:「四」に「八」があることは明白だが、「川」は真中の縦棒を除くと「八」ということなのだろう>
[5] 四川大地震が発生した5月12日は旧暦の“四月初八”に当たる。
<筆者註:旧暦の四月初八はお釈迦様の誕生日である。日本では新暦の4月8日をこれに当てているが、韓国では旧暦の四月初八は“釈迦誕生日”で祝日である>
[6] 四川大地震のマグニチュードは8.0であった。
 <筆者註:中国政府地震局は5月18日付で、当初7.8と発表していた四川大地震のマグニチュードを8.0に修正した>

 上記の[3]、[4]、[6]はこじつけと言ってよいと思うが、[1]、[2]、[5]は偶然の一致とは言
え何か因縁めいたものを感じさせる。吉祥の数字で本来は縁起の良いはずの「8」が、これだけ悪い事件に関連付けられると不吉なものを感じるというのも頷ける。

一方、今回の北京オリンピックの公式マスコットは、「5個福娃」(=5つの幸福をもたらす子供の人形)である。それは、魚の“貝貝”(Beibei)、パンダの“晶晶”(Jingjing)、オリンピック聖火の“Huanhuan”、チベットカモシカの“Yingying”、燕の“○○”(Nini)からなり、これらの名前を合わせると、「北京(Beijing) 歓迎(huanyin) ○(ni)」で「ようこそ北京へ」という意味になる。この点についても、インターネットの掲示板には次のような書き込みがなされている:
(註)○=「弥」 の「弓」を「イ(にんべん)」に換える

燕:1月25日、冬になると南に飛び立つが南方は大雪で雪害が起こった。(1+2+5=8)
チベットカモシカ:3月14日、故郷のチベットで暴動が起こった。(3+1+4=8)
パンダ:5月12日、パンダの故郷である四川省に大地震が起こった。(5+1+2=8)

聖火は北京オリンピックが開幕する8月8日

 そこで、残るのは魚と聖火である。聖火は北京オリンピックが開幕する8月8日を意味するが、魚の所在地は水のあるところ、即ち中国を代表する長江(=揚子江)で洪水が起こるのではないか。その時期は、月日の足し算で8となるとすると、5月30日(5+3+0=8)、6月2日(6+0+2=8)、6月11日(6+1+1=8)、6月20日(6+2+0=8)、7月1日(7+0+1=8)、あるいは7月10日(7+1+0=8)のいずれかということになるのだが。

 もう1つ、中国共産党の誕生(=結党)は1921年7月1日であり、2008年7月1日には“かぞえ年”で88歳の誕生日を迎えることになる。ここにまたもや「88」が顔を出す。

少なくとも2008年は例外?

 これらの書き込みを行っているネット仲間は、決して悪いことが起こればよいと考えているわけではなく、これ以上悪いことが起こってほしくないと願っているのだ。ただ、彼らが言いたいのは、中国の“「8」は吉祥の数字で縁起が良い”という伝統的な迷信は、少なくとも2008年は例外で当てはまらないのではないかということなのである。

 2006年7月に、浙江省温州市で靴用皮革を扱う実業家が“浙C88888”という自動車のナンバープレートの入札に参加し、三十数回もの付値競争の末に166万元(約2500万円)で競り落とした。これが中国におけるナンバープレート落札価格の最高値だということだが、ネット仲間からすれば、これは単なる自己満足の所産に過ぎず、“浙C88888”のナンバープレートがその実業家に幸福をもたらすとは限らないということなのだろう。

 5月12日に四川大地震が起こると、中国の人たちは32年前の1976年7月28日に河北省唐山市付近を震源として発生した“唐山地震”を思い出した。唐山地震の震度はマグニチュード7.8で四川大地震とほぼ同じであったが、3年以上経過した1979年11月17日に公表された死者数は24万人超であった。今回の四川大地震とは異なり、唐山地震の被害状況は隠蔽され、ほとんど公表されなかったので、実際の死者数は公表数をはるかに上回るものであったと考えられている。

1976年のうれしいニュースと対比される2008年のうれしいニュース

 1976年には、1月8日に総理の周恩来が78歳で逝去、4月5日には周恩来を追悼するために天安門広場に捧げられた献花が撤去されたことに端を発して民衆と軍・警察が衝突して多数の死傷者を出した“四五天安門事件”(=第1次天安門事件)が起こった。7月6日には元帥の朱徳が90歳で逝去、その後の7月28日に唐山地震が起こり、9月9日に毛沢東が83歳で逝去している。さらに、毛沢東が死んだことで、1966年から10年間続いた文化大革命が12月に終結している。こうして見ると1976年もまさに「波乱万丈」の年であった。四川大地震で唐山地震を想起した人々は、地震だけでなく、こうした意味合いを含めて2008年と1976年を対比しているのである。

 1976年は12月の“文化大革命の終結”といううれしいニュースで幕を閉じたが、これは苦難に満ちた10年間を耐えに耐えた全国民にとって最高の出来事であった。筆者が大学を卒業して会社生活を始めたのは1972年であったが、当時まだ文化大革命中であった中国から訪日した代表団に随行すると、団員の誰もが生気なく、疲れきっていたことを思い出す。

 それはさておき、1976年のうれしいニュース“文化大革命の終結”と対比される2008年のうれしいニュースは“北京オリンピックの成功”であろうと思われる。中国のネット仲間は「8」が吉祥という迷信は2008年には当てはまらないと言うが、2008年8月8日夜8時という「8」の“四並び”という縁起かつぎは霊験あらたかであってほしいものである。

 1964年の東京オリンピック(第18回大会)は10月10~24日に開催された。それに先立つ4カ月前の6月16日にはマグニチュード7.5の新潟地震が発生し、世界からはオリンピックの開催を危ぶむ声もあったが、被害は大きかったものの、死者が僅か26人と少なかったこともあり、東京オリンピックは支障なく開催され、成功裏に幕を閉じた。また、2004年のアテネオリンピック(第28回大会)は8月13~29日に開催されたが、開催中の8月24日にオリンピック会場から48キロメートルの場所を震源とするアテネ地震(マグニチュード4.6)が発生した。しかし、日本と同様に地震国のギリシャは、オリンピック会場の耐震を万全なものとしていたことから、競技は支障なく進行し、成功裏に閉幕することができた。

ここにも「8」が出てきた

 四川大地震発生の翌日、5月13日に北京オリンピック組織委員会は記者会見で、「全てのオリンピック関連施設は設計の段階から耐震強度マグニチュード8を基準に造られており、今回の地震でオリンピック関連施設に被害は発生していないし、今後も地震の影響を受ける可能性はない」と述べたという。ここにも「8」が出てきたが、1976年の唐山地震では北京市内でも多数の建物に被害が及んだことを踏まえて、耐震基準をマグニチュード8に設定してオリンピック関連施設を建設したものなのであろう。「備えあれば憂いなし」の例え通り、万全の態勢で準備を進める中国政府には、四川大地震に負けることなく、アジア地域で3回目の北京オリンピックを何としても成功させて欲しいものである。アジアの力を世界に示すためにも。

(北村豊=住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト)

by deracine69 | 2008-05-23 14:57 | アジア・大洋州  

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