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猪瀬直樹の「眼からウロコ」: 農水省のレトリックにはごまかされない

公用車は125台だけという「珍回答」に疑問、実態を質す
2008年11月11日21時46分 nikkei BPnet

 11月6日、地方分権改革推進委員会の丹羽宇一郎委員長(伊藤忠商事会長)が首相官邸に呼ばれた。そこで麻生首相から、「地方整備局・地方農政局の原則廃止」という指示が出た。

 地方整備局は国交省の出先機関、地方農政局は農水省の出先機関である。12月に予定している第2次勧告では出先機関改革が盛り込まれる。その中身にも弾みがつくはずだ。

 省庁の出先機関については、これまで何度も取り上げてきた(第40回、第43回、第49回、第51回、第57回参照)。今回は、出先機関の無駄を別の角度から明らかにしたい。公用車の問題である。

朝日新聞の問い合わせに125台と回答、実は7828台も保有

 7月28日付の朝日新聞が一面トップで、各省庁が保有する公用車数をスクープした。これは、朝日新聞が各省庁に問い合わせて判明したものだ。

 道路特定財源の無駄遣いで批判されている国土交通省は、4123台の公用車を保有しており、全省庁の65%を占める。財務省は610台、防衛省は428台、法務省は237台、厚生労働省は168台、環境省は166台、総務省は148台、内閣府は135台、農林水産省は125台、経財産業省は114台、外務省は46台、国家公安委員会は41台、文部科学省は41台を保有していた。

 しかし、ここで僕は疑問を感じた。地方分権改革推進委員会で把握している農水省の実態とかけ離れていたからだ。

 地方分権改革推進委員会では、7月17日に、地方農政局から備品購入リストを提出させた。そのなかでたとえば、さいたま市にある関東農政局地域課は、軽自動車を10台保有している。




 農水省の出先機関の庁舎数は339。単純なかけ算をしたとして、農水省の出先機関だけで数千台を保有しているはずだ。朝日新聞に載っていた125台という数字とはまるで違う。

 この違いはしっかり質さなければならない。僕は8月1日の地方分権改革推進委員会で、農水省にすべての車両数を明らかにするように言った。

 9月1日に農水省から返ってきた回答を見ると、そこにはなんと7828台所有という驚くべき数字が記されていた。ではどうして、数字が大きく違っているのか。そこには、農水省のレトリックがある。

 農水省によれば、公用車の定義は「運転手付きで専ら人の移動用の庁用乗用自動車」。これは、「行政効率化推進計画」で示されているという。役所では、幹部が乗るような、運転手付きの黒塗り乗用車だけを公用車と定義しているのだ。

 その結果、7828台の自動車を保有しているにもかかわらず、公用車は125台だけという珍回答が出てくる。公用車以外の自動車は、調査用車両、現場作業用車両、荷物運搬用車両などに分類されていた。

 即日、300万円以上の高級車の台数を農水省に問い合わせた。農水省のレトリックにごまかされないためには、具体的な数字をあげて聞くのがいい。

 9月22日に返ってきた回答では、300万円以上の高級車が224台もあった。車両の購入費用だけでも7億円近い計算だ。そもそも農水省がどれだけの事業を抱えているかとは別の問題で、農水省が出先機関を抱えているからこそ、これだけの車両を抱え込まざるをえなくなる。公用車の数は出先機関があることの無駄そのものだ。

無駄遣いの自覚もなければ、反省する気もない農水省

 おそらく、農水省は国交省と同じようなことをしているのではないか。国交省の出先機関は、500万円以上するトヨタの「アルファード」や日産の「エルグランド」を道路特定財源で購入。新聞などで批判された。

 国交省は、2010年度までに、保有する公用車の2割を削減するとしている。しかし、農水省は、2013年度までにたったの30台しか削減しないと言っている。国交省でさえ批判を受けて不充分ながらも反省の態度を示した。農水省には無駄遣いの自覚もなければ、反省する気もないのだろう。

 7828台もの自動車を保有していることについて、農水省は苦しい言い訳をしている。

 「調査・現場作業用の車両については、大部分が地方支分部局(出先機関のこと)の現場出先機関である国営事業(務)所……(略)……等に配置されている」

 「これらの機関の多くは、公共交通機関が未発達な地域に立地し、…(略)…業務遂行上、車両の使用が不可欠となっている」

 農水省の出先機関について、僕はずっと地方農政局を問題視してきたけれども、ここで新たに国営事業所という出先機関が登場した。国営事業所は、農地整備などの農業土木を行う「土地改良事業等の現地事務所」である。

 「土地改良事業等の現地事務所」とはなにか。公用車の存在から、あらたな出先機関の存在が見えてきたのである。農水省に問うと、国営事業所は79カ所あり、2985人の職員がいるという。

農地の基盤整備はほぼ終わり、あとの維持管理は地方に任せるべき

 10月1日の地方分権改革推進委員会で、僕は農水省農村振興局の齋藤晴美整備部長に、この「現場事務所」でいったい公用車を使って何の仕事をしているのか、と問うた。

齋藤 土地改良事業は、農家の方との話し合いのもとに決まる。その際、農家の方は、昼のあいだは農作業をしているから、夜に車で出かけて打ち合わせなどを行う。

猪瀬 結局、それは新聞記者と同じで、夜討ち朝駆けをしなければならないので、職員4人に1台の車が要るということですか。昼間は車は置いてあるだけなのか。

齋藤 昼も工事の監督などがある。それから集落で集会がある場合には、施行の順番などの打ち合わせもある。

 そもそも「土地改良事業」という事業を農水省が出先機関に人とカネと車を用意する必要性がどこまであるのか。

猪瀬 基盤整備のための土地改良事業というが、基盤整備には「終わり」があるはず。すでに何十兆円も注ぎ込んできて、いまは日本中がかなりきれいな形で整備されている。飛行機で地方に行くときに、よく上から見るのだが、ものすごくきれいですよ。基盤整備には終わりがあるはずであって、その終わりが来ているのではないか。

齋藤 人間にも命があるように、プロジェクトにもプロジェクトライフというか、期間があると思います。しかし、たとえばポンプであっても、30年、40年経てば壊れる。もちろん当然に国がやるということではなく、農家の申請にもとづくのだが、それらについて適時適切な時期にケアしないと、農業を持続的に行うことはできない。

猪瀬 まさに問題はそこです。基盤整備はほぼ国の力でやった。だからこそ、地方分権であとの維持管理は地方に任せてもらえれば、ポンプの錆びたのを取り替えることもできる。もう時代は変わって、農業土木のために、国営事業所が抱える2985人の職員を国が雇わなくてもよい時代になった。維持管理に専念して、地方分権する時代になったのではないか、と言っているのです。

分権委員会の議論がようやく麻生首相の決断を引き出した

 たしかに、日本という国は山あり谷ありで、農業をするのに苦労する地形だ。国土の約7割が山林で、わずかな谷間や平野に人間が寄りそって生活している。田中角栄が列島改造計画をはじめたのが70年代。それから40年近く、農業土木にたくさんの投資がなされてきた。

 僕が子どものころは、あぜ道は曲がりくねっていて、耕作機械が簡単に入ることができなかった。いまは、どこでもあぜ道はまっすぐになり、耕作機械がすぐ入れるようになっている。一部の中山間地を除いて、だいたいの基盤整備は終わっているのではないか。これ以上の農業土木はもう必要ない。

 農業土木を日本の隅々までやりきってしまったいま、問題になっているのは農地の基盤整備ではなく担い手不足。農地の1割が担い手を失って、休耕田、耕作放棄地になっている。40%という低い水準にある食糧自給率を上げるには、耕作放棄地を耕して農作物を増産しなければならない。担い手をいかに確保するかを考えなければならないのに、いまだに農業土木ばかりしている。ちぐはぐな農政はもうやめにしよう。

 麻生首相の「地方整備局・地方農政局の原則廃止」という指示は、二重行政の無駄をなくし、地方にとって本当に必要な土木、農政をするためにも、非常に大きなことだ。いままで地方分権改革推進委員会が議論を積み重ね、指摘してきたことが、ようやく首相の決断を引き出した。

 しかし永田町では、政局しか考えない自民と民主が足の引っ張り合いをしている。霞が関を平定するために、自民も民主もいっしょにやらないとだめだ。いまの日本に必要なのは、政治が足並みをそろえて官僚機構を変えていくことである。

by deracine69 | 2008-11-11 21:46 | 行政・公務員  

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